第9話 自分だけの隠れ家
子供の頃、私は家の裏にある小さな空き地に、秘密の隠れ家を作ったことがある。空き地は雑草が茂り、誰も通らないような場所だったが、私にとっては安全で、自分だけの特別な空間だった。古い木箱を見つけてはそこに置き、草をかき分けて小さな通路を作り、ここが自分の居場所だと心の中で宣言したのを覚えている。
隠れ家にいると、誰にも見られていない気がして、どこまでも自由な気持ちになれた。学校でのいじめや、周囲からの圧力から逃れ、ただ「自分」でいられる時間がそこにはあった。草むらに寝転び、空を見上げていると、どこか遠くにある別の世界にいるような感覚に包まれた。空は無限に広がっていて、その青さに吸い込まれそうになりながら、心が少しずつ軽くなっていった。
成長するにつれ、その隠れ家には行かなくなったが、大人になっても心の中には、自分だけの隠れ家が残っている気がする。周囲の喧騒や期待に追われ、息苦しくなるとき、私は心の中でその場所を思い出す。そこでは、誰からも干渉されることなく、自分だけの時間が流れている。現実の世界では得られないような安らぎが、その隠れ家には確かに存在している。
今の私は、家の裏の空き地には行けないし、あの頃の隠れ家も消えてしまったかもしれない。でも、心の中にそのイメージを持ち続けることで、どこにいても、どんなに追い詰められていても、少しだけ心を休めることができるようになった。
そして、大人になった今でも、新しい「隠れ家」を作りたいと思うことがある。それは必ずしも物理的な場所ではなく、たとえば、静かなカフェでノートを広げて過ごす時間や、カラオケボックスで好きな歌を歌うひとときなど。自分が自分でいられる瞬間が「隠れ家」になるのだと気づいた。
自分だけの隠れ家は、心の中にある宝物のようなものだ。日常の中で疲れたときや、誰にも頼れないと感じたとき、その場所に戻ることができるから。私にとって、隠れ家は単なる場所ではなく、心の避難所であり、何があっても逃げ込める最後の砦のような存在だ。
誰にも見つからない自分だけの場所があるという安心感が、どれだけ私を支えてきたのか。隠れ家に助けられ、心を守りながら、私はこれからも生きていくだろう。
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