損害賠償及びAI消去請求事件

大沢 朔夜

プロローグ

「それでは――損害賠償及びAI消去請求事件の第一回審理を始めます」

 という裁判官の宣言で、戦いは始まった。



 私は、法廷の被告側の席にいた。向かって正面には原告側の席があり、右には裁判官や書記官の席がある。原告側の席と被告側の席の間には、裁判官の席に向かい合う形で、証人用の証言台があった。

 冷ややかな緊張感の漂う空間で、裁判官が「まずは原告側に、訴状そじょうの読み上げをお願いします」と促す。それを受けて、原告側弁護士が、

「はい。原告は、被告・オーダシティ社がAIを『採用』したことによって不当に解雇されました。よって、被告側企業に勤めていた時の給料三か月分の損害賠償と、原告が解雇された原因であるAIの消去を請求します」

 と述べる。続けて裁判官が「被告側の意見は」と促すと、私たち被告側の弁護士・大越おおごしさんは、

「異議あり。私たち被告側が『採用』したAI・あさぎは、人間のような感情を持ち、人間のような働きをするから人間に相当します。よって、あさぎの消去請求は不当だと主張します」

 と述べた。それに続けて、私も手を挙げる。

 裁判官に「被告側証人の証言を許可します。証人は証言台へ」と促され、私は証言台まで移動した。

 裁判官に「あなたの名前は何ですか」と問われ、私は「万世橋まんせいばし美空みそらです」と答える。

 続けて、私は口を開く――

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