第47話 そして僕らは

 いつも怖かった。

 誰かが急に、目の前からいなくなることが。

 いつか離れていくのが当たり前のことだと分かっていても、それを受け入れられなかった。

 ずっと、一緒にいられると思っていた。

 いつか別れるなら、初めから仲良くしなければ良かったとさえ思った。

 ほんとうに、どうしていいか、分からなかった。


「傷つくしか、ないんだよ」


 話をするために公園に行き、ベンチに座ると、志穂はいった。桜が散るみたいに、風が吹くと、枯れ葉がパラパラと降ってきた。


「え……?」


 思わず僕は声をあげていた。

 想定外の言葉だった。傷ついているじゃないかと思った。


「信じて、それでも嫌われていたら、そのとき傷つけばいいの。人間関係なんて、そんなもんだよ、きっと。受け入れるしかないんだ。自分は、誰かから嫌われているかもしれないってことを」


 志穂はそう言うと、僕の顔を見た。


「納得いかないって顔だね」

「そうだね」


 正直、納得できていなかった。

 そんな僕に、志穂は笑った。


「まあでも、そうだよね。これは私の考えだから、正解ってわけじゃない。でも、この世に嫌われない人なんて、いないんじゃないかって私は思うんだ」


 僕は冷静になって、反論した。


「いや、いるよ」

「え、だれ?」

「志穂」


 僕がそう言うと、志穂は馬鹿だなぁと笑った。


「嫌われてたよ。いっぱい」


 そんなこと、なかった。

 志穂は小学生の時から、誰からも愛されていた。男女問わず、クラスメイトは志穂が好きだった。嫌う人なんて、どこにもいなかった。そういう才能を持っているんだと、僕は思っていた。

 志穂はベンチに身体を預けて、空を仰いだ。何かを思い出すように、彼女はいった。


「うん。いっぱい嫌われてた。表だって嫌ってくる人はいなかったけど、普通に陰口とか言われてた。偽善者とか、男好きとか、弱虫とか……。あと何があったか忘れちゃったけど、とにかく嫌われてたんだ、一定の人からは」


 嘘をついているようには、見えなかった。

 彼女を見ると、複雑そうな表情をしていた。

 同じように、僕も空を仰いだ。木々の隙間から、赤く焼けた空が見えた。風が吹いて、木の葉が落ちてくる。


「だからさ」


 志穂は言う。


「嫌われるのは、きっと、当たり前のことなんだよ。それを隠すことも、大人になっていくからあるかもしれない。それでもし、嫌われたと分かったら、ちゃんと傷つくしかない」


 空を仰ぐのを止めて、彼女は僕を見た。


「だから、ちゃんと向き合ってよ。智也くん──」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る