ゴーストライト

綿貫 ソウ

第1章

第1話 死んだはずの君と

 死んだはずの幼なじみからメッセージが届いたのは、高校三年の四月のことだった。


   * 


 その日、家族が花見に出かけるのを見送ってから、僕は自室でキーボードを打っていた。

 カーテンを閉め、電気を消した部屋は暗く、パソコンの液晶画面だけが唯一、光を放っていた。外から聞こえてくるはずの賑やかな声は、ヘッドホンで遮断され、僕の耳には届かなかった。だから、目の前のことに集中することができた。


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 ……を進めた。手紙に書いてあった通り、校舎裏には花宮佳奈がいた。



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 僕は、ライトノベルを書いていた。

 ハーレムもの。

 大人しい主人公が、訳あって美少女たちに好かれる話だ。その日は頭が冴えていて、物語に入り込むようにキーボードを叩いた。


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「よかったぁ。来てくれて」


 校内でもトップクラスの美少女である彼女は、どうしてか少し緊張しているように笑った。


「花宮さんどうしたの。なんで僕をここに呼び出したりなんか」

 

 美少女を目の前に、僕も緊張してしまう。


「それはね」


 彼女は頬を染めて、ゆっくりと口を開いた。


「私は君のことがずっと」


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 そこまで書いたところで、液晶画面に異変が起きた。


 「好きだったから」


 そう、打とうと思っていた。


 でも、そうはならなかった。


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 「なに、してるの?」


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 そのときは、まだそれ程驚きはなかった。


 打ち間違いをして、予測変換が過剰に反応しただけだと思った。


 でも、deleteキーに手を置いたところで、文字はさらに追加された。


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 「ねぇ、智也くん?」


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 背筋が凍った。


 智也は僕の名前だった。


 deleteキー以外に、僕の手はどこにも触れていない。それなのに、どうして。


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 「ねぇ、花宮って誰? この子? 君はこの子のことが好きなの?」


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 一瞬、息が詰まった。


 心の奥で、懐かしい声が聞こえた。


『ねぇ、智也くん──』


 僕はゆっくりと、文字を打った。


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 「君はだれ?」


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 心臓がドクンと脈を打った。


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 「覚えてないの? 私は──」


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 ——ねぇ、智也くん

 今日一緒に帰りたいから、校舎裏で待っててよ。


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古沢志穂ふるさわしほだよ──」


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 死んだはずの幼なじみの名前が、そこにあった。

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