第32話 ドグの独白 諸行無常
ウズマサは、ドグの背中に小太刀を突きつけながら、寝ている見張りに声をかけて起こした。
見張りは慌てて弓矢を取り出したが、手でそれを制すると、「捕虜だ、ひとまず彼の話を聞こう、全員を起こしてくれ」と頼んだ。
見張りは寝ていた恥ずかしさもあってすぐにマントを翻し、ウズマサより先に野営地に向かった。
夜は白々しく明けており、充分に睡眠をとってはいないが、疲れがとれて身体は動く程度には眠れた様な心地で皆起きてきた。
ウズマサがゴブリンの捕虜を連れてきた。
そして、ゴブリンから敵の事情や情報を聞き出すつもりらしい。
一行は貴重な情報に信憑性があるか疑いつつ、また憎きゴブリンに憎悪の眼を向けるエルフ達を抑えつつ、ドグの話を聞くことにした。
ダンキチの通訳で、ドグは語り始めた。
まず、ゴブリンは12の氏族に分かれており、ドグはエルフの農業への労働の対価として小麦や牛乳、チーズを貰う共存の道を選び始めたティダ族の出自だと告げた。
「ゴブリンを農作業に使う村なら聞いたことがあるぞ。それなら何故俺たちを襲ったんだ?」
エルフのステフが厳しく尋ねる。
「それも、全てお話します。」
ドグの独白は続いた。
モンテンノーザが復活したと魔王代理を語る者たちがゴブリンの各首長を訪ね、戦列に加わるよう命じた。
数の多いゴブリンを戦力として利用するモンテンノーザにどう対応するか、全て女性で構成されたゴブリンの首長らが首長会ゴングリノミコを開いて話し合おうとした。
そこに、モンテンノーザ配下のハイオーガが現れて力で全員をさらったのだと語った。
更には、首長の首を餌にゴブリンの住処である巣穴からゴブリンの女達を全員人質として奪われていった経緯を話すと、虎族から怒りの声が挙がった。
女を人質にとるやり方が虎族の倫理的には許せなかったのだろう。
「それで、」
グウェインが腕を組んで尋ねた。
「ゴブリンはどこにどの程度いるのか?この先の都市にどの程度いるのか教えて貰えないか?」
グウェインは質問でより実利的な話に変えようとした。
「勿論知っている全てをお話致します。その代わりと言っては、不躾なお願いになるのですが、私の妻だけでなく、ゴブリンの女首長、ゴブリンの女達をモンテンノーザの手から開放して頂きたいのです。
時代は変わりました。私達はオーガやトロルやハイウルグの様に、決してモンテンノーザの邪悪な思念に操られている訳ではなく、まして喜びと共に貴方がたと敵対する気は毛頭ないのです。貴方がたが信じないのなら、もう私の命を奪って頂いて構いません。どうか、どうか妻達だけは救って貰えないでしょうか」
ドグは頭を下げた。
ダンキチの翻訳の上手さもあって、一行はしんと静まり返った。
目を瞑り考える犬士もいた。
義憤にかられる虎族もいた。
そして、エルフの中は憎しみとは別の感情が芽生え、皆が皆、何かを感じ取ったように静まり返っていた。
ゴブリンは戦いを強いられている。好戦的な部族はいるだろうが、交渉次第では味方にさえつけるかも知れない。ふとウズマサは思った。
「女達の開放はティリウスに持ち帰るべき案件だな。劣勢に立たされた我々の戦局を、少しでも返せるだけの今後の交渉材料に使えるかもしれん。」
ウズマサの言葉にエルフからも頷く者が出始めた。
「ドグを使ってゴブリン駐留部隊とやらと交渉してみよう。どうせ戦うつもりだった相手だ。交渉決裂すれば戦をすれば良い。上手く運べば誰も怪我なく通れるかも知れない。どうだろうか?」
この言葉に反抗する者はいなかった。
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