第30話 協力要請隊なるもの

 トランザからドワーフの住む山脈まで都市3つ分。

 途中で戦闘になるかも知れないのと兵の行軍の速度との兼ね合いを考え、阿島の犬士全員と虎族10名、エルフ斥候隊と名付けられたエルフ達が20名、そして他のディナシーに騎士団団長代理を立てたグウェインの、たった47名によるドワーフ国への協力要請隊が出発した。


 斥候隊は弓と短槍、短剣で武装し、マントを羽織り鎧は着てはいなかった。

 犬士は犬豪のみが壊れた大鎧を着て、犬士は腹巻という胴鎧と、侍烏帽子が入る簡易兜のみ共通で、後は各々工夫してすね当てや手甲、肩当てを巻いていた。

 ウズマサは頼みにしていた大鎧が壊れたので、予定通り頂戴した鎖帷子に胴鎧をつけ、肩に鎖帷子の重みが集中するのに耐えながら歩いていた。


 虎族は思い切って重い鎧を身軽にし、長服に短い肩当てのついた胴のみをつけ、トレードマークである黒い帽子を被り足取り軽く行軍した。

 霊馬に乗って板金鎧に身を包み、完全武装出来ているのはグウェインやディナシー位であった。


 トランザの次の都市オランは、トランザと違って開放的な農業地帯であり、ここやクルエドといった穀物や作物、家畜を輸入源とする豊かな農業地帯が落とされ焼き討ちにあったせいで、食糧難になったと言える。

 トランザはそれでも助けずに分厚い石の壁に籠もったし、肝心のリファールなどは、そうした街が襲われる度、兵を出し惜しんでは逐次投入するという愚をおかしていた。


 国同士都市同士の連携が平時に上手くいっていれば避けれたことではあったのだが、平地エルフ達はそれぞれの集落から国を開拓していったというプライドや自負があるため横の繋がりが薄かった。


 最初にモンテンノーザが襲った時は、たまたま国家間で軍事的緊張が高まっており、武装兵力が揃っていた上、付け加えれば、諸侯の領主に名君が多く、共通の敵に対して連合を組み手を合わせるだけの賢明さが備えられたというだけで、モンテンノーザ死後は堕落したと言われても仕方のない状態にあった。


 誰も死体まで灰になったとされるモンテンノーザが復活するとは思ってなかったのだ。


 また、これからもモンテンノーザのような魔王が出てくるという想像力も足りなかった。

 それがこの体たらくを生んでいた。


 ウズマサは、平時に戦時を思え、という中央大陸の賢人の言葉を思い出しては、他より重武装で馬もないゆえ遅れがちな自分を鼓舞して速歩きしつつ、考え事をしていた。


 阿島で鎖帷子があまり流行らないのは、作る手間や費用は勿論のこと、着用すると鎧のバランスとして全重量が肩に負担され、また前後左右の動きが悪くなるという重心上や身体操作上の欠点があった。


(脱いだら誰かに肩を揉んで欲しいな。)


 ウズマサは密かにそう願いつつ談笑する他の兵士の会話を聞いていた。

 コミュニケーションの鬼となったダンキチが、豆々しく各自の通訳を努め、エルフやグウェイン、虎族達とも打ち解けてきている。


 エルフから教わった、単語や初級会話程度のエルフ語を口にする犬士達や虎族達をみて、ティリウスの様な貴族や上の者がいないほうが上手く団結出来ていると感じていた。



 都市まで焼け野原を通り過ぎる。その間に敵は居なかった。

 これはモンテンノーザの軍も兵力を遠くに伸ばした結果、誰も居なくなった都市を放棄して、重要拠点に兵力を集中させるという方策をとっているからに違いなかった。


 受胎泥じゅたいでいなるものからハイウルグが幾らでも産まれると知った時、ウズマサは無限の兵を思い震撼したが、ホムンクルスという錬金術の特性として、それほど簡単には量産できないと聞いてやや安堵したことを思い出した。


 ここには人気がない。僥倖かも知れない。


 上手く素通りできることに期待する一行だった。

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