第21話 リアンへ
翌日、炎国の貢ぎ物兼輸出品を載せた荷車を囲む様に、ウズマサは背は低いがスタミナがある借りたボウ馬に跨がり、徒歩で行く犬士達を指揮していた。
シウォンと護衛達、そして虎国の貢ぎ物を載せた荷車は阿島一行の前を進むことになった。
『虎が白狐の民より先にリアンに入場する』という形だ。
王族と外交官では比べ物にならないのだから、その点は仕方なかった。
ミカドの血縁の者を、沈む危険性のある船に乗せる訳にはいかなかった。
その為、阿島はこうした外交では遅れをとりがちだ。
先祖が獲得した対等外交の成果頼みなのが、阿島の国としてのこれからの課題だった。
虎国より歩きに合わせて5日。
シウォンの姿を見た国境警備隊の熱い敬礼ともてなしもそこそこに国境を過ぎようとしていた。
「ここからリアンまで行くのに渓谷を通る事になりますが、ここには野盗が住み着いておりまして…」
警備隊長が地図を広げて説明する。
虎語が分からないウズマサ達はササキの翻訳によってそれを知り、緊張が走った。どの程度の規模なのか。
「規模はそれ程大きくはないのですが、陛下の護衛隊は兎も角、阿島の15人程度の警備では荷物を持っていってくれと言わんばかりの難所になるかと。」
「それは困ったな。」
ウズマサは唸った。
「少し遠回りでも安全な道筋はないのか?闘いと消耗は少ない方がいい。」
「ふ、普段なら」
ササキが頭を抱えた。
「普段の貢ぎ物の品だけなら虎国からでなく他の島々を通って行くだが、私達が運ばないと外交上での意味が無いからな。我々と共に貢ぎ物が来る。それが大事なのだ。」
そんな事を言われても…
ウズマサは鼻の皺を深くして困った顔をした。
「では、我々の護衛隊を阿島の皆さんにお貸ししましょう。」
「陛下!彼等の世話をしろとおっしゃるのですか!」
王族の護衛隊長ドンウクが抗議した。
「渓谷を抜けるまでの間だけだ。」
「しかし!」
「親愛なる隣国の荷車の世話は出来ないか?」
「!?」
シウォンの言葉に、護衛隊長ドンウクは言葉を失った。
「はっきりさせておこう。私は対等外交をしてみせた白狐の民という種族に敬意を払っている。彼等の貢ぎ物は形式的には『貢ぎ物』だが、輸出品の礼として輸入品との交換を受けているのに対して、我々虎族は未だに朝貢外交の種として輸入品との交換など行われていないではないか!私は将来炎国と対等外交が出来る様にセジャ(王の後継者)である長兄を盛り立てていくと心に決めている。どんな大国に対しても対等な関係を築く、力強き独立国でありたいと思っているのだ。」
ウズマサには虎語は分からなかったが、国境警備隊の駐屯地の小屋の中の空気が、何がしかの感動で包まれているのを感じ取っていた。
「無論、阿島の国ともだ。航海技術が未熟で大陸に影響を与えることは少ないが、それでもどんな国とも対等で外交をしようとするこの島国とも同等として付き合う。これはその一環だと思って欲しい。」
「殿下のお気持ち、このドンウク感服致しました。」
護衛隊長が頭を下げた。
「では、我々は彼等の荷車の警備に人員を割かせていただきます。」
「お心遣い有難うございます。殿下」ササキもまた感動に包まれた顔をしていた。
「結局どうなったんだ?」
ウズマサはポツリと生粋の阿島語で呟いた。
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