第17話 天狗退治とミナモトノトモヨリ

 ライゴウの元でホクシンナナホシ流を教えてもらうついでに、ウズマサは犬豪として犬士の纏めあげ方や思考法、犬豪の謂わば心構えといったものまで教わる様になっていた。


 ウズマサにとってライゴウは偉大な先輩であり、師匠の様な存在になりつつあった。


「型がこなれてきたな」

 型稽古中にライゴウが目を細めた。

「ライゴウ殿の教えの賜物です。お陰様で柔剣を会得できそうな気がしてきました。」

「気ではありませんぞ、ウズマサ殿」

 ライゴウはニッと笑う。

「綿が水を吸うようによくぞここまで技を吸収なされた。周りには太刀しか扱えぬ男と呼ばれてるのは知っておりますが、太刀こそは狼族の伝統ある主要武器の一つ。貴族の近衛の武器でもあり貴族に一番仕えるのに役立つ武器ですからな。」

「貴族に仕える武器、ですか。」

「左様」

 ライゴウは木刀を納めた。慌ててウズマサも木刀を腰に差す。

「ミナモト家はフジワラ家に上手く取り入ってる様ですが、我がシラカワ家は貴族の後ろ楯がありませぬ。実力を示し、犬豪となった後でも、相も変わらず山賊退治や最近は天狗退治までやる始末。」

「少数民族の天狗衆ですね。」

 ウズマサは相づちをうった。

 天狗は、本体は人語を介する大型の鴉であり 、泥人形に山伏の格好をさせた鴉天狗や鼻高天狗の人形をつくって中に入り込んで中から操り、薙刀や杖を手に武装しては都への反乱行為に出ていた。

「ライゴウ殿。天狗衆の片付け、微力ながら手伝い致しましょうか?」

 ライゴウは首を振った。

「お力添えは有り難いのですが、ミナモト家の総代ミナモトノトモヨリ殿が黙ってはいないでしょう。」


ミナモトノトモヨリ。


 ウズマサがウズマの時に鎧の手配や琵琶の一件での不始末をとりなした人物であり、ミナモト家の総代をつとめている。

 貴族と深いパイプがあり、犬士の家系であるミナモト家を貴族近くの地位まで上げようという野心があった。

 ウズマがウズマサになってからは疎遠になっていたが、それでも影響は強かった。

「しかし、折角ご教授頂いているのに何の恩返しも出来ていないのは、某としては心苦しいばかり。トモヨリ殿には某が言うておきますので、一度で良いので某をお使い下さい」

「ならば、次は天狗退治の時に」

「はい!」

 ウズマサは笑顔を浮かべた。



 ウズマサの家は父親であるギントキの家であり、それなりの広さはあったが、トモヨリの屋敷程では無かった。

「ミナモトノウズマサでございます!誰かある!」

 屋敷の入り口が開き、程なくウズマサはトモヨリの元へ通された。

「久しぶりだな、ウズマサ。鵺と祀ろわぬ神退治以来か?」

 トモヨリは目が黒く毛並みはシベリアンハスキーに似ていた。

「お久しぶりで御座います。」

 ウズマサは床に拳をついて深々とお辞儀をすると、面を上げた。

「また武具がいるのか?」

 トモヨリの言葉にはほんの少しトゲがあるように聞こえた。

「はい。シラカワライゴウ殿の手伝いに天狗退治を致したく。」

「天狗か」

 トモヨリの顔は曇った。

「天狗だけではない。今は河童まで出て来て、朝廷に楯突く少数民族や妖怪が増えた。鎧は一領貸してやる。修繕できない位壊すなよ。」

「有難うございます。頑張って参ります。」

「うむ。時にウズマサ」

 トモヨリはウズマサの顔をじっとみた。

「大陸で大陸間移動魔法が完成したという話は聞き及んでいるか?」

「はい。」

「そのこけら落としに我が国の貴族も参列することになっていてな。妖怪退治がすんだら、貴族の護衛に当たってほしい。」

「あの、フジ様の許可が御座いませんと」

「ああ、あの男には話を通しておく」

 トモヨリの言い方にウズマサはギョッとした。貴族をあの男呼ばわりして良いものではない。

「分かりました。某も大陸へ行くのですね」

「そうだ。ちゃんと帰ってこいよ」

 トモヨリの軽口は止まらないようであった。

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