第3話 大太刀

 多くの犬士が弓槍を手にもつ中で、ウズマは弓の代わりに背中に大太刀を背負い、チカラヲから苦笑されていた。


「俺を差し置いて隊長、しかも、弓も持たずに手ぶらとはな。」


 チカラヲはウズマを鼻で笑った。


 彼もまた槍の代わりに金棒を担いでいるが、その実力は折り紙つきであった為、誰も笑うものはいない。




「失礼ながら、大太刀に自信のありますもので。」ウズマが反論に出た。


「どの程度の実力かは知らんが、遠くから射かけられたらどうする?打ち合う代わりに大太刀でも投げるのか?」


「矢を切ってご覧にいれます。」


「矢を切るだと?」


 チカラヲだけでなく周りから小さく笑い声があがった。


「大太刀で力を誇示したいのか?その若さで扱えるものとも思えん。それでよく犬士を名乗っているものだな。」


「そもそも犬士にとって太刀は命、では御座いませんか?」

 短気なウズマはキレそうな自分を堪えた。


 死んだ父ギントキから一番に授かったのが、剛力の剣術であり、大太刀の使い方であった。

自信ならある。


 それを知ってか知らずか、チカラヲはまだ名前改めをしていない若いウズマが今回の役目の長になるのが気にくわないらしかった。

 難癖をつけてやろうというわけである。


「確かに太刀は命よ。貴族の近衛には太刀を用いるし、賊に悪鬼妖怪の類を退治しても首を取らねば武勲が立たぬ。しかし、」

 チカラヲは言いながらプッと吹いた。


「首を断つとき、そんな長い太刀は扱いに困るよなあ!」


 再びあがる嘲りの笑い声に、ウズマは頭の中で数を数えた。フジの抜擢ばってきに応えねばという思いだが、我慢には限界がある。


「某は太刀には自信がある。何なら軽く立ち会ってみるか?チカラヲ殿」


「ほう?俺とやる気か?いいだろう、こいよ坊主」


 チカラヲが棍棒を構えるとウズマは大太刀を身体を回すように引き抜いた。


 周囲の注目を浴びながら、チカラヲが先にしかけた。


「ムン!」


 危険な一撃をウズマは毛先一つでかわすと大太刀を下から切り上げるようにチカラヲの喉元に同時に突きつけた。



「…ふん」


 チカラヲは首を動かしてウズマがピタリと止めた剣を振り払うと、内心の驚きを隠した。加減したとはいえ当たれば兜越しに気絶でもしていた一撃だ。

 脳震盪でも起こしていれば自分が代わりに隊長をつとめても良かった。


「まぁまぁ、修練は積んどるな。すぐそこまでの警護ならお前程度の腕前でもいいだろうさ。」

 チカラヲはウズマを誉める気はなかったが、実力は認める形になった。



 すぐそこ、といっても実際は屋敷を出てから、倉のある神社モノオサメまでそれなりに遠かった。

 火事を防ぐ意味でも都からやや外れた場所にあり、高床式の立派な倉の中には中央大陸との交易やシルクロードで得た宝物が並んでいる。




 行く先には賊に襲われない為に竹藪や整地されていない道を行くこともある。馬を使わずに全員徒歩での警護だった。


 白狐の民の世話役の、文官使用人の官服を着た狸人が二人、御輿の様に琵琶の入った箱を前後に担いで持ってきた。




「これより出発する!」


 大太刀をしまったウズマの号令に、小さなオウという掛け声があって、一行はモノオサメに出発した。

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