ジョブは万能錬金魔道士です!

帯刀しぐれ

第1話『神様と出会いました』


俺、桜小路悠介はものづくりが大好きだ。


料理、裁縫、工芸、調合。ものを一から創り出すという行為はいつだって俺の胸を踊らせる。

その片鱗は幼い頃から発揮されていて、小学校の図工の授業で芸術品同然の作品を創り、周囲を驚愕させていた。

創作に捧げた俺の人生はまだまだ続くと思っていたーー交通事故に遭って死ぬ時までは。


普通よりちょっと変わった男子高校生として「変人」呼ばわりされ、それを気にする事もなくルンルンと「次は何をつくろうかなー」と道を歩いていたら、アッサリとトラックに跳ねられた。

運動もまるでしていない貧弱な身体が耐えられる訳もなく、俺の生涯は終わりを告げた。

血塗れのなか、最後に俺は思った。


ーーもっと、もっとものつくりをしたかった。


その願いに応えるように、魂の奥に浸透するような美しい声が聞こえた気がした。


ーーその願い、叶えよう。



目覚めたら、どこまでも続く真っ白な部屋でふよふよと漂っていた。自分自身は淡い光の玉になっているようだった。

ゼル◯の伝説に出てくる妖精みたいだな……

そんなくだらない事を考えていると、真後ろから誰かが近づいてくる気配がした。


「やぁ、悠介くん。不安な最後だったね。まさか、あんなにあっさり死んでしまうとは」


死ぬ直前にも聞いた、中性的で美しい声。振り向くと、漆黒の髪を肩まで伸ばし、狐のお面を被った少年がいた。体格は小柄でかなり細身だが、不思議と頼りなさや貧弱さは感じられない。それは恐らく、彼が放つ圧倒的なオーラが原因だろう。


「えっと……きみはだれ?強者オーラが半端じゃないんだけど」

「ははっ、面白い事言うね。まぁ、確かに、ボクは神様だから強者オーラはあるかもね」


愉快そうに笑いながら言った。

へぇー、神様か。どうりで………って、え?

神様ァ!?


「神様って本当にいたんだ………」

「驚くところはそこかい?もっと『ここはどこなんだー』とか『俺は死んでしまったのかー』とか、色々あるでしょ?」


神様は呆れたように身振り手振りしながら言う。


「そうだった。えと……俺は死んだの?ということは、ココは天界なの?いや……なのですか?神様なんだから敬語の方がいいですよね?」

「なんだい、キミはそんな事を気にするタチじゃないだろうに。まぁ、敬語でもタメ口でもどっちでもいいよ。好きな方を選ぶがいい」

「じゃあ、タメ口で」

「そこでタメ口を選ぶかぎり、キミって結構大物だよね」


そう言って神様は心底愉快そうに笑った。ゴホンと咳払いをして話題を戻す。


「話を戻すけど。ここは天界で君はあっけなく死んでしまったんだ。本当なら、ルールに従い記憶と身体を失い、輪廻転生をするはずなんだけど……」

「なんだけど?」

「ボクはキミを気に入っていてね。別の選択肢を示そうとも思うんだ」

「えっ、なんで?」


神様ほどの人物に気に入られるような善行を積んだだろうか。首を傾げて不思議そうに神様を見つめる。


「まぁ、確かに世界を救うような善行は積んでいないね。けど、ボクはキミのものづくりに対する情熱とそのためならどんな苦労も厭わない真っ直ぐさを好きになったんだ」

「……今、好きになったんだって言った?神様は俺の事が好きなの?」


キョトンと見つめると、神様の耳がぶわっと赤くなった。


「す、好きっていうのは……違うよ!?ペットとかに向ける愛情のことだから!全くもう、勘違いしないでよね……」


ツンデレみたいな事を言いながら神様はそっぽを向く。

ペットって神様……。


「とにかく!ボクは君の事を気に入ってるんだ。そんなキミの記憶も身体も消すのはもったいないと感じてね。だから提案だ」


神様は胡散臭げに笑い手を広げた。


「異世界に行かないかい?きっとキミの理想のものづくりができると思うよ?」


ーー神様の話によると。

俺が生きていた世界とは別の世界には魔法が存在するらしい。その一種として『錬金魔法』というものづくりに大変役に立つ魔法があり。そしてそれはまだ、発展途中らしい。


「だからね、ものづくりが好きなキミに異世界に行ってもらい『錬金魔法』を発展させて欲しいんだよ。もちろん、不自由ないように色々な能力をつけるし……どうだい?」

「行きます!」


俺は即答した。

神様は口の端をニヤリと釣り上げる。


「元気のいい返事だね!決まりだ」

「俺、たまにゲームや漫画を見るたび、ずっと思ってたんだ。魔法の力でものづくりをするって凄く楽しそうだな……って」


俺は、深々とお辞儀をしようとして、実態がない事に気づいた。


「だからありがとう。俺にまたものづくりをする機会を与えてくれて」

「……ふん」


神様は少し照れたようにまたそっぽを向き、

俺の身体に手を翳した。


「サービスだ。全属性を扱えるようにしてやろう。あと特別に【鑑定】スキルもやろう」

「本当に!?ありがとう神様!」

「キミは異世界で【万能錬金魔道士〈オールマイティアルケミスト〉】を名乗るがいいよ」

「何から何まで……罠とかないよね?」

「そこは素直に受け止めておけ」


呆れたように言う神様はパチンと指を鳴らす。

それと同時に、魔法陣のようなゲートが現れた。


「ほら、もう行け。いつまでもここにいる訳にもいかないでしょ」

「うん!あ、でももう神様と会えないのは寂しいな………」


話したのは少しの間だけだったが、友達のいない俺にとっては楽しい時間だった。異世界に行ったら、友達作りをしてもいいかも……と思うほどに。


「……あいにく、ボクは天界から動けないからな。上司からも言われているし……やりたい事はたくさんあるけど」


そう言って俯く神様は悲しげに見えた。

そんな神様に、俺は断言した。


「神様。俺は天界の事は知らないし、的外れな言葉かもしれないけど」

「………?」

「やりたい事があるのなら大人しくしてちゃ駄目だよ。それは神様とか人とか関係ないと思うんだ」


暫く神様は沈黙した。

……もしかして、偉そうに言いすぎた?

でも、言わなくちゃいけないと思ったんだ。

神様は俯いていたが、やがて顔を上げた。


「ありがとう、悠介」


俺と神様は笑い合う。

穏やかな時間が流れた。


「さっ、もう行け行け。早くものづくりがしたいでしょ?……ボクも後でいくから」

「えっ?今なんて………」

「なんでもない!ホラ、早く早く!」


神様は俺を魔法陣に押し込んだ。だんだんと意識が薄れていく。視界が真っ白に染まる。


ーーそして意識は暗転した。


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