第545話 ちょっと不思議なパーティ探査

 さて、話もひとしきり終わったというわけで、俺と香苗さんは予定どおりダンジョン探査に向かうことにした。

 今日は夕方からクラスのみんなで夜祭に参加するから、探査って言ってもそんなにガッツリこなすつもりはない。軽めのを一つやったら家に帰って支度するつもりだ。

 

「というわけでみなさん、我々はこのへんでお暇させていただきます。お疲れさまでした」

「こちらこそ。貴重なお時間を割いていただき、まことにありがとうございました」

 

 香苗さんと斐川さんが挨拶を交わし、一同立ち上がる。

 話を聞くにこれから斐川さん、荒巻さん、早瀬さんは三人娘と面談するとのことだ。俺たち相手にやったような経緯説明と謝罪と、今後についての意思確認を行うのだとか。

 

「まあたぶん、今後も関口をメインに据えての指導とはなるでしょうが。今度は我々のうち最低でも一人は常時、彼についてフォローできるようにしますよ」

「ま、下手さえ打たなきゃ何も言うつもりはないですが。関口、今のあんたならきっとやれるさ」

「……はい! 精進します!」

 

 互いに今度こそ、ちゃんとした指導体制を整えようと息を合わせる指導陣。力強く頷く関口くんのやる気満々ぶりに、これならきっと大丈夫だろうと安心する。

 これで、三人娘さんたちについては解決だな。なんだかんだ、俺にとっても勉強になるいい経験を積ませてもらった。いつか、万一にも誰か新米さんに何かを指導する、なんてことになった時、今回のことはしっかりと活かさせてもらおう。

 

「……あの、香苗さん。山形」

 

 解散して、俺と香苗さんの二人で受付へと向かおうとする。と、そこで関口くんが声をかけてきた。

 先程までのラフな私服に、上から探査用の防護ジャケットを装備している。背中には鞘に収めた剣を提げていて、今からダンジョンに潜りますよって感じの服装だ。スボンもよく見ると探査者がよく使う、防刃用の分厚いズボンだ。暑そう。

 

 そんな彼が呼び止めてきたものだから、俺たちも怪訝そうに立ち止まる。香苗さんが戸惑いもあらわに応えた。

 

「? どうしました、関口」

「これから探査に行かれるんですよね? もしよければなんですけど、俺もご一緒させてもらってもいいですか?」

「関口くんが、俺たちと?」

 

 意外な提案。てっきり彼も夜祭に参加するもんだから、今からは何かしら用事でも済ますのかと思っていたんだけど。普通にクラスのグループチャットにも彼、いの一番って感じに参加表明してたし。

 思わず香苗さんと二人、怪訝に彼を見る。何やら笑って関口くんは、続けて言った。

 

「二人には一度、今の俺の実力を知っといてほしいと思いまして。山形はもちろん香苗さんも、探査者としての俺については3年前に見たきりでしょう?」

「たしかに、それはそうですが。なぜあなたの実力を我々が知る必要があるのでしょう? 気を悪くしたらすみませんが、純粋に意義が見えてこないといいますか……」

 

 困惑しきりに香苗さん。なんでわざわざついてきて、自分の実力を見せるつもりなのかがわからず、ただただ首を傾げている。

 俺的には、彼の探査する姿を見てみたいところはあったりする──そもそもいずれ、彼と一緒に探査がしてみたいとはかねてから願っていた──ので、問題ないんだけれども。

 

 いきなり言い出されたらそりゃ、戸惑うよね。

 関口くんへの隔意とかそういうのを抜きにハテナマークを浮かべる彼女に、彼は恥ずかしそうに頬をかいて笑った。

 

「その……俺のこれからの目標は、山形みたいな本当の探査者になることですから。二人には今の俺を知ってもらって、そこからどんどんと成長していく姿を、どうか見定めてほしいと思うんです」

「俺みたいって……もうちょっと目標は高く持ったほうが。ほら、それこそ香苗さんとか」

「強さの話だけじゃないからいいんだよ。探査者としての姿勢、在り方。今までずっと目を背けてきてしまったものに、お前を通じて向き合うことに決めたんだ」

「関口くん……」

 

 澄んだ瞳で俺を見る、彼の姿はもう立派に探査者な気しかしないんですが。まあ本人がそう言うんなら、それは関口くんの意志を尊重するしかないしね。

 探査者としての姿勢とか在り方なんて、そんな大層な話で俺を目標に設定されるのも何やら大役というか、責任重大だよなあ。

 

 関口くんのそうした言葉に、我らが伝道師香苗さんもさすがに何か、思うところがあったんだろう。

 彼をじっと見つめ、不意に小さく息を吐いた。軽く笑みを浮かべて、仕方ないですねと告げる。

 

「私は構いません。今日はどのみち探査するダンジョンは一つきり、それも私の新装備の試験運用も考えている程度のものです。ついでにあなたの今の実力とやらも、見ることもたまにはいいでしょう。公平くんはどうです?」

「俺はもちろん、断る理由なんかどこにもありませんよ。関口くん、俺のほうこそ君の戦いを学ばせてほしい」

「無茶言うなよ、ビーム出したり光ったりするやつの参考になんて、なれそうにもない……でもありがとうございます、二人とも」

 

 彼との探査を断る理由なんて当然ながらない。俺の言葉を受けて、苦笑いしつつも関口くんは頷いた。

 となれば今日は俺、香苗さん、関口くんの変則的なパーティでの探査だな。関口くんの実力、見せてもらうのが楽しみだよ。

 

「それでは行きましょう。探査者として今日も、ダンジョンを探査し踏破します」

「はい!」

「わかりました」

 

 香苗さんの促しに、俺と関口くんが頷き応える。

 そして俺たちは談話室を出て、組合本部の受付へと向かうのだった。

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