第544話 見ると心が落ち着くシャイニング山形

 斐川さんたちからの説明でいろいろと事情もわかったし、話もひとまず一段落した感じがある。

 関口くんと三人娘がいかにしてここまで至ったのかも判明したので、納得したとばかりに香苗さんは頷き、やがて微笑みながらも斐川さんたちへと告げた。

 

「事情はわかりました。たしかにあの三人、戦闘以外のところでは仲もいいので、見誤るのも無理からぬことです。不躾にお話を伺うことになり、失礼しました」

「当然の説明義務ってやつだ、気にしないでほしいぜ御堂さん」

「そう言っていただけると助かります。ただ、強いて言えばやはり誰かしら一人は、彼の先輩としてついているべきだったとは思います。第三者から見た、私見ではありますが」

 

 控えめながら、それでも確信を秘めた声色で香苗さんが提案する。たしかに、ある程度は仕方のない部分があったにせよ誰かしら一人でも、後方で指導を見守るようにはしておくべきだったとは俺も思う。

 関口くんに気を遣ったのはわかるけど、結果的に丸投げみたいになってしまったのは完全に斐川さんたち側の判断ミスだろう。

 そこは彼らも承知のようで、深く頷き、答えた。

 

「ああ、それは間違いない。関口がなまじそれなりにやればできるもんだから、つい甘える形にしてしまったのはこちらの落ち度だ……次からは俺たち三人も関口の指導をバックアップする。本来、そうすべきだったんだよな、初めから」

「変に後ろから見られるのも、関口的には気まずいだろうしってことでひとまず任せきりにしたのが、あまりよくなかったね。尊重すべきもの、タイミングを完全に間違えてたよ」

「そうでなくともこの界隈、どこの国でも人の指導風景にはあまり口を挟まない風潮がありますしね。ある種の徒弟制度といいますか……人の弟子、人の生徒には請われでもしない限りは口出ししづらいんですよ」

「そうなんですね……」

 

 世界中を巡って探査業を行っているという、早瀬さんの言葉に感心する。

 俺の場合、師匠らしい師匠もいないからいまいち実感が湧かないんだけど……たしかに師弟関係があちこちで散見される以上、師匠でもない人が他人の弟子に口出しするっていろいろ、トラブルの種にはなりそうだよね。

 

 今回の三人娘の場合、仮ながら師にあたる関口くんに請われる形で、俺と香苗さんが差し出口を挟んだ形になるけれど。たとえばそうでなかった場合、もしこっちから変に口出ししてた場合、間違いなく話がさらに拗れていたんだろう。

 まあそんなことしないんですけどね。あの時点では関口くんとも三人娘とも、そんな見かねて口出しするような知り合いでもなかったし。

 

 それにしても、と早瀬さんが俺たちを見て、感心したように言う。

 

「いやもう、驚きですよね。こちらがアクションを取る間もなくあっという間にあなた方が動いて、あの三人の連携を改善しちゃったんですし。なんなら関口くんも何やら成長したみたいで、事後、彼から話を聞いてもう、お見逸れするしかありませんでしたよ。はっはっはー!」

「突進癖を抑えればいい徳島と、物言いに気をつければいい新潟はともかく。鹿児島については《召喚》の仕様にまで触れる必要があったろうに、見事なアドバイスをくれたそうじゃないか。山形くんが知っていたと関口から聞いたが、本当かい?」

「え、ええまあ。その、スキルについてはその、個人的な興味からいろいろ勉強してまして……」

 

 斐川さんの問いに、目を逸らしつつ応える。勉強ってまあ、こないだ大学で本買って、たまに読んだりしてるし嘘は言ってないよね。

 そうした問答に荒巻さんがほう、みたいに目を丸くしている。早瀬さんもふーん? みたいな、物珍しそうな目で見てくる。個人的興味でスキルについて学んでいる、ということになっている俺が、結構奇特に思えるみたいだった。

 

 基本、自分で持ってないスキルについてまで勉強するような人って結構珍しいんだよなあ。精々自分の持つスキルか、習得したいスキルか、あるいは仲間のスキルについてくらいだろうか。

 香苗さんのように、探査者界隈そのものに対して強い影響力を持つ有名人が、いろんなスキルについてその保持者をサポートする意味合いで、動画で講座を開いていたりすることはあるけれど……そうでなければ単なるマニアの範疇を出ない、雑学のような分野ではあるからね。

 

「あー、特にレアスキルについては結構、興味がありまして……僕自身、なんかよくわからない名前の変なスキルばかりですからね。《風さえ吹かない荒野を行くよ》とか」

「ああ……なんか歌詞みたいなのがズラズラ並んでるんだろう? 効果は強力無比と聞くが、もし我が身に降り掛かったらと思うとゾッとするな」

「シャイニング山形のあの光もスキル効果ですか? 動画で見た時、めちゃくちゃピカピカしててビックリしましたよ。はっはっはー!」

「あ、いえそれは称号効果ですね……ははは……」

 

 なんかいい感じにスキルについて勉強していることへの理由づけをした結果、話が俺のポエミースキルに向かってしまった。斐川さんが"そんな恥ずかしい名前のスキル、俺なら耐えられないよ(笑)"みたいなことを仰っている。つらい。

 なんなら早瀬さんなんか動画で見たんだろう、シャイニング山形のシャイニングがスキルなのか聞いてくる始末だ。

 

 あれ、称号効果なんですよね……見たものの心を癒やすという、リラクゼーションシャイニング山形でもあるのです。

 こんな詳細、何があったって言えるか!

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