第7話 人の夢と書いて儚い
俺の扱いをどうするのかは、組合の方でもすぐさま決めかねる案件だったらしい。持ち帰って検討しますと言われ、俺と御堂さんもその場で解散となった。
「お時間よろしければお食事とかお風呂とかおホテルとかどうです?」
「お結構です明日からお高校生におなりますので」
もはや欲望を隠すことない彼女の追撃を振り切って帰宅した俺は、結局潰れに潰れた春休みをたった半日だけだが堪能し、次の日の朝を迎えた。
春だ! 高校一年生、山形公平一日目だ!
今日から素敵な高校生ライフが始まるのだ! 俺のテンションは高い! なぜなら!
「学生で探査者ったら、モテモテなんだってばよなぁ~!」
これである。学生探査者はモテるのだ。ていうか探査者自体がモテるのだ!
考えてみれば当然の話で、まず探査者という職業がそもそも希少だ。スキルが覚醒しない限りは組合員にすらなれない狭き門。日本ではわずかに1万人しかいないのだからまあ少ないこと。
世界全部引っくるめても、100万人行かないんじゃないの? つまりはそのくらい、レアなお仕事なわけだ。
そしてそういうレアなお仕事ゆえ、めちゃめちゃ儲かる。
うちの母ちゃんが亡者発言キメてたけど、実際マジ儲かるらしい。特にモンスターを倒した時、稀にドロップするアイテムとか素材が色々な用途において価値があるそうで。
ダンジョンコアに至ってはなんと、それ一つで最小価格から100万円は下らない。ダンジョン所有権を売りに掛けるようなものなので、つまりは土地を売買しているようなものなのだからそうなるわな。
規模の大きなダンジョンともなれば億単位のやり取りになるらしく、その辺になると俺には遠い遠い天より遠い果ての世界だ。さすがに望むべくもないが、副業程度に探査者やってる人でも話を聞くと、食うに困らず悠々と生活できているらしい。
で、だ。
つまりはそういうお金持ちになれる点で、俺っていう子供の将来性はもう、凄まじいわけなのね。俺と付き合えたらその時点で、お金パワーでウハウハなわけ。
モテないわけないじゃーん。モテるに決まってんじゃーん。
……マネーパワー頼りのこの思考、いかに歪んでいるかは自覚あります。でも仕方ないじゃないですか、今まで女の子と話もロクにしたことない俺が、それでもモテたいと思っていた俺が! 財力チートを手にして! おかしくなって何が悪いんですか!!
「何もおかしくない。よって俺は正しい。以上、証明終了」
「なにブツブツ言ってんだよ、山形」
今日からお世話になる学校、東クォーツ高等学校の一年13組の教室。
入学式もついさっき終えて、名簿順なので割と端っこの方の席に座って先生が来るのを待ちつつ、上記のカスみたいなことを考えていた俺に、隣の席の男子が話しかけてきた。
ええと、こいつ名前たしか。
「松田、だっけ」
「おう、松田太助な。で、どうしたんだ?」
「いや、別に……」
「そっか? ま、一年よろしくな」
「ああ、よろしく」
笑顔の眩しい爽やかさだが、イケメンと言うにはちょっと普通。そんな好少年の松田くんに会釈したあたりで、担任の先生が入ってきた。
30手前くらいの、ゆるふわカットが癒やしになりそうな女教師だ。かわいい系の顔立ちで、見た瞬間俺の一年は幸せなものになる予感がしている。
教壇に立って先生は、皆、つまり俺たち生徒を見回して微笑んだ。
「はい、皆さん入学式お疲れさまでした。私が今日から皆さんと一年を過ごす、一年13組担任の原田さやかです。よろしくおねがいしますね!」
かわいい。フワッと微笑むのまじかわいい。
隣の松田くんも、何なら他の男子たちも皆やられたようで、鼻の下が大概伸びている。わかる、わかるよ。あの御堂さんで通った道だ、俺も大いに理解できる。
一方で女子たちの、男子への視線の冷たさったらないね。これから青春の一年を共に過ごすってのに、粗大ごみを見る目でため息まで吐いている。怖ぁ……
男女の意識の差がこんなにあるなんて知らなかった……! などとしょうもないことを考えつつも、今度は生徒の自己紹介が始まる。
名前と、出身中学と、軽く一言を添えて挨拶するのだ。つまりはここが俺という男を見せる、第一にして最重要ポイントとなるのだ。
軽く、さらっと、流すように探査者であることをアピールする。それだけで良い。
それだけで俺はクラスの中でも飛び抜けて将来性のある、一種のカリスマになれる。陽キャの輪に入って高校デビューと洒落込めれば、うふふ、彼女とて夢ではないのだ!
勝った! 俺は勝ったぞ!
「関口久志、北皇子中学出身。中一から探査者やってて、今はD級です。よろしくおねがいします」
「探査者!?」
「すごーい!」
「えっ、しかもカッコいい……やだ、やだー! イケメン!」
なん……だと……
呆然と今、挨拶した男子を見る。
悠然と微笑むイケメンが、俺よりベテランで級も高い探査者であることを、さも当たり前のようにさらっと宣言していた。
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