第6話 時代の寵児?

 結局、事情を聴取とか言ったところで判明することは何もなかった。

 結論から始めて恐縮なんだがそりゃあそうだ、俺からは心当たりのなさしかないし、組合からしても初めてのケースすぎて前例ゼロ。これで推測の一つでも立てられる方がどうかしている。

 

「いやまさか、こんなことがあるとは……」

「そんなに珍しいんですか? 称号の初獲得なんて」

「もちろんですよ! 最後に初獲得された称号は、記録にある限りでは50年前の《猫探しの達人》が最後なのですから、これは実に半世紀ぶりの快挙ですよ!」

「猫探しの達人て」

 

 よっぽど迷い猫を探し当てるのが得意だったんだろうな、その称号を得た人。ともかく俺の称号 《武器はあなたに似合わない》は、そのくらい価値のある称号らしい。

 何ならその効果、武器をどれだけ使っても一切上達しないとかいう終わってるデメリットについても、逆に界隈的には価値があるそうで。

 

「これまでの称号はすべて、探査者にとって何らかのメリットをもたらす効果が付き物でした。それが今回発見された称号はどこからどう見てもデメリット! これは研究資料としても価値が期待できますよ」

「そ、そうですか……」

「ええ! 一度獲得した称号の効果は次、別の称号に差し替わった後でも継続して探査者に付随するわけですから。メリットばかりかと思われていた称号にまさかの罠があるなどと、歴史的発見ですよ!」

「罠とか言わないで欲しいんですけど」

「あ、すみません」

 

 くぅ、好奇心に支配された目をしている広瀬さんが憎たらしい! 悪かったな罠に引っかかった無能で、でも予想付かないじゃんあんなの、武器持ったらアウトってなんだよそれ。

 しかも称号は、それそのものは更新されて別のものになってもそれまでに得た効果は探査者の力となる。つまり俺は今後、武器を使ったところで成長することは本当に、一片の余地なく、ガチのマジで、欠片も可能性すらないってことだ。

 

 これ詰んでね?

 一瞬どころか長時間、探査者としての道が終わった顔をしていたらしい俺に、なんの因果か希望を示したのは肉食獣の御堂さんだ。

 心配げに俺の両手を握り、あやすように言ってくれたのだ。

 

「武器がなくとも格闘術があります。実際、空手家や柔道家がその技を駆使して探査をしている例も少なくはありません。絶対に諦めてはいけませんよ、公平くん」

「御堂さん、なんでそこまで」

「あなたに、探査者の道を諦めさせてはいけないと本能が訴えているのです。こんなことは初めてです。一目惚れなのでしょうか? 運命を感じます」

「あ、そういうのいいんで」

「私は本気です」

「怖ぁ……まあ、ありがとうございます。一応、探査は続けてみます」

 

 オトナの包容力にかなり本気でバブってオギャってべろべろばあしそうになった俺、正気に戻れてよかったな!

 運命とか言い出す子は怖い。まして、出会って一日かそこらの男にここまでベッタリしてくるなどどういう話なんだ。いくら俺が猿でもさすがに踏みとどまるわ。

 いやまあ、励ましてもらえたのはありがたいんだけどね。それとこれとはね。話がね。違うから。

 

「それに何より、解説が異様です。スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》もそうですが、これらの解説は明らかに説明ではない」

「俺への説教ですよね」

「もしくは導きとでも言えますか。いずれにしろ、それはつまり。あなたに対して何者かが、解説欄を通して干渉してきているという疑いが出てくるのです」

 

 何それ怖ぁ……でもまあ、正直、俺も俺のステータスから何者か、タッチパネルの向こう側にいる人の意志? みたいなものをうっすら感じている。

 じゃなかったら普通、こんな説教ないでしょ。何もしてないぞ、俺。

 誰かが俺にやらせたいことがあって、そうなるように称号やらスキルやらの解説欄を使って誘導している、と見るのが妥当だろう。

 

「これまで幾度となく、ステータスやスキル、称号は誰かの作ったものではないかという議論はされてきましたが! これは学会に一石どころか十隕石は投じる流れになりそうですよ!!」

「いんせき……はあ、まあ。お元気そうで何よりです」

「……テンション低いですねえ」

 

 高くなるわけ無いだろ! こちとらデメリット付き称号に、説教までされてるんだぞ!

 一体どこのどなたか知らないが、何様のつもりだと声高に言いたい。ただの子供捕まえてこの仕打ちはあんまりにもあんまりだ、現代日本っ子として盛大に訴えたいところである。

 

「問題は今後、公平くんが妙な組織に目を付けられないか、というところではないですか? 広瀬本部長。彼の探査者としての素質は、世界を一変させてなお余りあるでしょう」

「いや、世界て」

「たしかに価値は大いにありますが、御堂さん。その言い分はいささか」

「大袈裟とでも言うつもりですか? 彼はもう、時代の寵児なのですよ」

 

 大袈裟ぁ!

 俺のことを気遣ってるのは分かるけど、かくいう御堂さんも十分妙ちきりんな個人ですよとか思っちゃう。

 広瀬さんも同様に感じたようで、しばし彼女をドン引きの視線で見るのであった。

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