第4話 すべての武器にサヨナラを(強制)
「それで、その御堂さんって人に連絡先とか諸々知られたの? えっ、兄ちゃんダサすぎ?」
「ひどい」
晩飯時、今日の顛末を家族に説明したところ、愛しの妹、優子ちゃんから頂いたお言葉がこれである。ひどい。
新米として探査者になれたのだから、頑張ってねとか、怪我しないでねとか、あっても良いじゃん。
ダサすぎってなんだよ……仕方ねえじゃん。あの姉ちゃんマジで怖かったんだもんよ。
と、一通り話を聞いていた母ちゃんが、味噌汁を飲みがてら聞いてきた。
「それで、あんたダンジョンに潜るんでしょ?」
「一応、最低週一度は潜るよう推奨されてるよ。まあ、ぼちぼちやってく」
「頑張んなさいよー。探査者ったらあんた、一攫千金も夢じゃないじゃない」
「はいはい」
金のことしか頭にねーのか、このババもといお母様は。
ダンジョン探査なんて命がけもいいとこなんだよ、ちょっとは心配しろってんだ。
まあ、かと言って本気で心配されたらそれはそれでうぜーって思いかねないのが俺なんだけど。やだ、クズすぎ……?
「それで、公平。御堂さんというのはどんな人なんだ。美女で例えてくれ」
そんな中、ポツリと呟くのは父ちゃん。
威厳はあるんだが内容は糞の中の糞だ、隣の母ちゃんが人殺しの目をしている。何なら優子ちゃんだって肥溜めを見る目をしている。
やめて! その人、この家の大黒柱なのぉ!
「お母様かな……」
「誰が野獣で例えろとアッ、ちょっとまって抓るのやめて愛してる愛してますこの想い届いて」
「誤魔化すならせめてあたしも美女って言えやぁーっ!」
テーブルの下でどうやら抓っているらしいママン。パパンが悶絶している。晩飯時に特殊なプレイはやめろ! 寝室でやれ!
隣では優子ちゃんが我関せずと飯を食っている。この淡白さが学校では受けているらしく、明後日には中学2年の彼女は毎日めっちゃ告られているそうな。まあ美人だしな、兄目線とか抜きにして。
他人だったら告ってるわ、そして振られてる。あ、いや俺に誰かに告るだけの勇気はないから今の嘘だ。告られている場面に出くわして僕が先に好きだったのに……! って薄暗い興奮に身悶えしてるわ。いや兄貴じゃない俺キモいわ。
「何見てんの? キモい」
「ひどい」
訂正、兄貴の俺もキモかった。泣くわ。
ともあれそんな感じで、探査者としての活動についてはあんまり心配されていないまま報告は終わった。
飯も食い終わったんでごちそうさまして部屋に戻る。スマホを見ると、SNSに複数、メッセージが届いていた。
「御堂さんいきなりじゃん。怖ぁ……」
特に何も聞いてないのにマイプロフィールを爆撃してくんのマジやべえ。何この人、本格的に肉食じゃない?
いくらなんでも犯罪ですよと返信しておく。あと通知オフ。
さて静かになったし、今日は疲れたしベッドに直行。お気に入りの音楽を聞きながら、ちょっと探査中に気になったことを考えるか。
「なーんか、剣が性に合ってなさそうなんだよなあ」
そう、モンスターと戦った時に感じた違和。
剣を握って振れはするものの、使いこなせそうな予感がまるでしないという、探査者的には割と致命じゃね? 的な感覚のことだ。
なんというかこれこそ本能的に、確信に近い違和感なため、さすがの俺ちゃんもちょっと腰を据えて考えざるを得ないわけ。
「適性がまるでない? 才能がないのか……変なスキルはあるくせに」
正直言えば、たぶん俺ってスキル的にすげー大成しそうな気はしてるんだよね。普通ないじゃん、いきなり全能力10倍なんてぶっ飛んだやつ。
ライトノベルでよくある無双チートじゃんやったぜぇへへへふへへ、なんてことをね。ポエミーな名称には目を瞑って考えちゃってたわけなんよ。
ところが一発目からこれ。剣を振っても何の手応えもないどころか、逆に合ってねぇ~って気付いちゃうの、結構ダメージあるよこれ。子供メンタルなんだから手加減してほしい。
「《ステータス》」
改めて、ステータスを確認してみるか。大体最初の探査でレベルが1、上がると聞いたし。
そんな軽い気持ちの俺だったが、次の瞬間さらなる混乱に陥ることとなる。
名前 山形公平 レベル3
称号 武器はあなたに似合わない
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
称号変わっとる!? え、何、何が起きた?!
今朝はすっぴんだったじゃん、まだ誰でもない俺だったじゃん! え、一回探査したくらいで変わるくらい、称号ってぴょんぴょん変わるもんなのか?
さすがにビビるわ怖ぁ……震える手で俺は、俺にしか見えないタッチパネルの称号に触れた。
称号 武器はあなたに似合わない
解説 心得よ。あなたの戦いは、傷つけ殺すためにあらず
効果 武器使用時、熟練度上昇停止
《称号『武器はあなたに似合わない』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……どうかお忘れなく。あなたが武器を振るう限り、風は荒野に吹かないことを》
「……………………怖ぁ……………………」
もうなんか、色々ありすぎる。
思考停止した俺は、そのまま意識を失うようにして眠りに落ちた。
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