ぱっつん黒髪ロングの秘密

ぽぽ

秘密

 眉の下で揃えた直線。流行りからかけ離れた重さ。色は黒。腰まで伸びたスーパーロング。ストレート。

 女は美しくなくてはならない。しかし、私自身は誰から見ても美しいわけでもない。そういう場合、自身の中で自身の美しさを定義しなければならず、私が定義した美しさはその髪型だった。全てに理由があった。眉の下で直線に揃えることは瞼に無駄な余白を与えず生まれ持った小さな目を輝かしく見せることができ、尚且つ面長を緩和させる効果を持つ。重い前髪は、シースルーの流行りから逸脱することでモードな雰囲気を得ることができる。黒であることは、これもまたモードな雰囲気を得る一つの理由だが、実際のところは地毛の色を活かすことで金銭的負担を緩和している。スーパーロングは大切な比率であり、顔の長さ2つ分の髪の長さがあれば実際の大きさよりも小顔に見せる効果を持つことができる。ストレートであることは、これだけの髪の量を鬱陶しくなく美しく見せるための方法である。


 つまらぬ生活の中で生きた心地がするのは、髪にトリートメントを浸透させ、洗い流し、タオルドライした後にまたヘアミルクを浸透させ、ドライヤーで丹念に乾かし、最後の仕上げにヘアオイルを浸透させ、艶やかになった髪を櫛がなだらかにおりてゆくときだ。


 冬。乾燥して櫛が髪を梳くのを拒む時期。そして、人恋しく思う時期。

私は、髪を短く切りたい、とふと思った。

それほどまでに寂しかったのだ。

 自身が研究し、長年かけて育てあげた髪を切り落としてでも、とある人に気づいてもらいたかったのだ、私という存在だけで。

これだけのアイデンティティと自身の定義した美しさを失っても、本当に私は、私自身であるのかどうか確かめてみたかったのだ。


手離せなかった。


自己は容姿に依存していた。

髪を切るために、と用意した金額をそのまま、新しいヘアミルクとヘアオイルの購入に充てた。

今後、私が髪を短く切ることがあるのなら、きっとそれは私が過去の自分を殺すときだろう。そう、晴れやかな未来のために。

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