ライゼの終末探索日記
白ウサギ
1日目
第1話
「う......うぅん。」
私は、寝心地が悪くて目を覚ますと、見知らぬ公園のベンチの上で横になって眠っていた。
朝の光が木々の間から差し込み、私の顔を明るく照らしている。
ぼんやりとした意識の中で辺りを見回すと、公園の遊具は草木に覆われ、まるで私だけが時間に取り残されたかのように静かに佇んでいる。
私以外に周りには、人っ子一人いない......。
「よいしょっと......。」
私はゆっくりと身体を起こし、先ほどベンチの上で眠っていたせいで首と背中が痛むのを感じ、その場で思いっきり背伸びする。
「うぅっん........はぁ~........痛かったぁ......。」
私は、そのままベンチの上に座ったまましばらく周りを見渡して、私が誰のか、ここは何処なのかを思い出してみる。いくら考えても何も思い出せないし、ここが何処なのか私が誰なのかすらも分からない。
ガサ(何かを蹴る音)
脚で何かを蹴ってしまった私は、ゆっくりとベンチの下を屈んで見てみると、私の足元には、どこか見覚えのある大きなリュックサックが置いてあった。
「これって......私の?」
何か手掛かりがあるかもしれないと思った私は、リュックサックを持ち上げて、自分の膝の上に置き、中身を開けて確認してみる。
「水の入っているペットボトルと、サバイバルナイフに、栄ヨーバー?それからマッチと、筆記用具に......ノートがあるわ!」
私は、勢いよくリュックサックからノートだけを取り出し、何か書いてある事を願ってページを開けてみる。
「ライゼ?」
真っ白なページに一言だけ。
私は、その文字を見た瞬間、自身の名前がライゼだった事を思い出し、胸が締め付けられるような感情が湧き上がってきた。いつの間にか、一筋の涙が私の頬を伝いノートの上に落ちる。
R「どうしたんだろ........。」
自分でも理解できない感情に困惑して、私は流れ出た涙を袖で拭った。冷たい布地が肌に触れ、この非現実的な世界から、非情にも私をすぐに現実に引き戻すような感覚があったが、何か大切な事を思い出したような気がして心の何処かでホッとしている。
「チュチュ......。」
不意に前の方から何かの鳴き声がして、私は顔を上げて声の方を見てみる。
年月が経ちコケが生えて崩れ落ちてしまっている噴水の近くには、小さな小さな溝が出来ており、水が流れていた。
その近くには、猫だか鹿だかよく分からない角の生えた小さな動物が水を飲みにやってきていた。
その動物は、私と目が合うなり、
「チュチュ......チュチュ!」
と鳴き声を発して何処かへ走り去ってしまった。
R「なに......あれ.........。」
見た事のない生物に困惑し、私はまだ夢の中にいるのだろうかと感じてしまう。
記憶がないとはいえ、あれは私の知っている動物と大きく異なっているし、周りの風景も何処かおかしい。
草木に覆われ古びて壊れてしまっている公園に、見慣れない生物.......。
私は、リュックサックの中にノートを急いで詰め込んで立ち上がると、取り合えず人を探すために公園を出てみることにした。
公園を出た瞬間、そこには異様な景色が広がっていた。
デカいビルが青空を背に、無残な姿をさらしていた。草木が生い茂り、コンクリートの割れた隙間からは、緑が顔を出している。窓はところどころ割れており、一部のビルは崩れ落ち、道路もところどころ陥没し、水溜まりが出来ていた。
R「何よ.....これ.........。」
人が住んでいたような痕跡の無いその風景に私は絶句し、大きな声で誰かいないか呼びかけてみる。
R「誰か.......誰かいませんか?(大きな声)」
R「誰か!(大きな声)」
ひゅ~っと、風が吹くたびに、廃墟のような静けさが一層際立って見える気がする。
私が大きな声で呼び掛けるたびに建物の中から、物音がして見た事のない動物がちらっと顔を出し、私を見るなりどこかへ逃げて行ってしまった。
R「ここは.....何処なの?」
私以外、人の気配すら感じない廃墟の大都市。
(ここには、私のような"人間"なんていないのかもしれない。)
ふとそんな事が脳裏を過ってしまう。
不安になってる場合じゃないと感じた私は、取り敢えず寝床を確保するために、安全そうな場所を探しに出かける。
R「とりあえず.....倒壊しそうな場所は、避けないとね。」
公園を出て凸凹でひび割れ、植物が生い茂っているアスファルトをまっすぐ進み、壁に穴が開いているが比較的安全で頑丈そうな建物を見つける。
R「ここを拠点にしましょう......。」
(人を探すのを諦めたわけじゃない。)
ただ、あの公園のベンチでずっと寝ているわけにもいかないし、この奇妙な世界の夜がどんなものかも分からない、それに雨が降ってしまえばリュックサックに入っているマッチが寝れてしまい使い物にならなくなってしまうし、風邪をひいてしまうかもしれない。
だから目が覚めた場所からこんなにも近い場所で、拠点になる場所をすぐに見つけられたのは、本当に幸運だったのかもしれない。
R「まだ日は明るいわね......。だいたい昼頃かしら?」
太陽の登り位置を見て、今がだいたいどれくらいの時間帯なのかを確認し、まだしばらくの間は明るい事を確認する。
R「昼頃なのに少し肌寒いわね.......。夜になったら大変だわ。」
(昨日の私は、よくこんな肌寒い中、外のベンチで平然と寝られたものだわ。)
と感じて少しだけ、身震いする。
R「建物の中には、何か使える物でもないかしら?」
私が入って来て今拠点にした場所の廃墟の中は、すっからかんでもぬけの殻だったが、何処かの建物には、まだ使えそうな物資が残っているかもしれない。
こんな古びていて廃墟同然の建物にそんな事があるわけがないのは、分かっているのだが近くの安全そうな建物の中を覗いて探索してみる。
R「.........え!?」
私が入った廃墟の中は、陳列棚が散乱し、窓が大きな木の根によって割れており、外の明かりをその木の根が遮断し薄暗くなっていた。床のタイルも何枚か剥がれており、剥がれた場所にはコケが生え泥水が溜まっていた。
何もないかと振り返ろうとした時、私の目に何かがチラっと移って見えて二度見してしまう。
驚いた私は、その陳列棚に置かれてある綺麗な商品を手に取って見る。
R「こんなの事ってあるの?」
新品同然のタオルが2枚ビニール袋に未開封の状態で入っており、私の身体全体を覆えそうなほどの大きなバスタオルが1枚ビニール袋に未開封の状態で陳列棚に置かれてあった。
こんなに散乱していて、建物は滅茶苦茶なのに穴一つ空いてない新品の状態で置かれてあるタオルとバスタオル。
何処かおかしい気もしたが、私はありがたくその品を頂戴して拠点に帰って来た。
R「なんでこんなに綺麗なの?」
改めて持ってきた物を持ち上げて裏返したりして確認してみる。多少砂や埃を被っている物の、中身は綺麗なままに保存されており、敗れた形跡も虫に齧られている形跡もない。
R「これで夜はこせそうね......。」
最初は、そんな事があるわけないと思って探索に出たわけだけど、とんだ拾い物を手に入れることが出来て少し嬉しく感じ口角が上がる。
ただ、まだ解決できていない部分も多くある。
まず、食糧と水の問題だ。
水は最悪、公園で見た小さの溝に流れていた水でも大丈夫だろう。
良く分からない猫だか鹿だかの動物が飲んでいたくらいなのだから、飲み水程度には期待する事が出来るだろう。
(ただ、煮沸くらいはしたいと思っている。)
それよりも一番の問題は、食糧だ。
周りに人間がいるか確認するために、探索するにしても食料は欠かせない。
まだ、体力もあるし元気だからいいものの。
それもだんだんときつくなってくるだろう。
R「あの動物って食べられ........。」
ふとそんな事が脳裏を過るが、あんな良く分からない生物を食べるのは嫌だし、可愛い見た目だから少し躊躇してしまう。
そんなこと言ってられないとは、思うけど出来れば食べたくはないし、捕まえられる自身は無い。
R「また....探索してみる?」
(まだ明るい時間帯だし、まだ探せば何か見つかるかもしれない。)
そんな都合よく食料が発見出来たりするなんて事は思えないけど、どうせ人がいた痕跡を探さなければならないのだから元気なうちに動き回れるだけ動き回って手がかりを探すしかない。
そんな事を考えて私は、リュックサックと先ほど見つけて来たバスタオルやタオルをその場に置き、出来るだけ身軽な状態で探索に出かける。
ただもしもの時ように、護身用にサバイバルナイフだけ持った状態ではあるのだけれどね。
R「よし.....でかけますか......。」
私は、緊張して手に少しだけ汗をかくのを感じるが、それと同時に何処か少しだけワクワクしてしまう。
拠点を出て反対側の道路にある鉄が錆びれて色も剥げていて見えにくい文字で、
窓は全て割られてあり、案の定陳列棚は床に散乱し、倒れていた。
床のあちこちに開けられた形跡の缶詰や、潰れてしまい缶詰の蓋が開いており、中身が綺麗に無くなっている缶詰が散らばっている。
R「やっぱりそうよね......。」
と溜め息を付きながらも、陳列棚の上を歩いて奥の方にやってくると、未開封の状態の缶詰を見つけて手に取って見る。
R「え!?」
2度目の奇跡を目の当たりにし、缶詰を裏返したり一周したりして本当に空いてないのかを確認する。
R「開いてない!」
興奮してしゃがみ込んだ私は、そのまま笑顔を浮かべて他の缶詰も見てみる。
R「これも!これも!?」
3個ほど未開封の状態の缶詰を発見し喜ぶが、本当にこれが食べられるのかが分からない。
缶詰がいくら長持ちすると言っても、こんなに廃墟のようになってしまっている都市にある缶詰だ。先ほどのバスタオルやタオルと違って、日用品じゃなくて自分が口に入れる食べ物......。
R「中身.....腐ってたり?」
辺りに散らばっている缶詰を見て溜め息を付きながら日付を確認してみる。
今がいつなのかすら覚えてないけど、1つだけ缶詰を開けて見た時、もしそれが普通に食べられたらその年代の物は大丈夫って事なのだから一応一つ一つ確認してみるために手に取って見る。
R「あれ?」
どの年代も賞味期限や消費期限がばらばらの缶詰......。
(そんな事があるのだろうか?)
だいたい缶詰は、長持ちするのだから店頭にも長い間残っていて、それで年代が少しずれていてもおかしくないとは思う。
しかしこんなにも年代が......10年や20年も離れた物が置いてあるものなのだろうか?
床に転がってる缶詰を手に取って見ても、どれも年代が別々で一番上の年代だと、2045年になっている。さらに一番下の年代だと、1986年の物まである。
R「どうなってるのこれ?食べられるの?」
取り敢えず、不安になりながらも未開封の状態の缶詰だけを手に持ち、持てないものはポケットに入れて拠点に戻って来た。
R「どういうことなのよ?」
持ってきた缶詰を床に置き、もう一度年代を確認してみる。
賞味期限:2014/06/23 カンパン100g
賞味期限:2028/09/12 サバっと缶 水煮
賞味期限:2025/12/01 ウマっとコーン
お腹が空いたら一つ一つ開けて見て、臭いを確認した後に慎重に食べてみるしかない。
(出来れば火に通した後に.....。)
幸い缶詰だから、火に通しても大丈夫だろう。
ただ蓋を開けるために付いているステイオンタブのない缶が1つあるのでこれは、ナイフで開けるしかないのだが......。
R「ま、まぁどうにかなるでしょ.....それに食料があっただけ良かったわ。」
と言い、私は硬いコンクリートの床に寝転がり上を見上げる。
(ここって何処なんだろう?私は何であんな所にいたんだろう?)
そんな事を思いながら......疲れた身体を休めるために休憩する。
<持ち物>
巨大なリュックサック
in[ノート1冊、筆記用具(シャーペンと消しゴムのみ)、水の入ったペットボトル2本、栄ヨーバー4本、マッチ2箱]
サバイバルナイフ
バスタオル1枚 (未開封)
タオル2枚 (未開封)
1個:賞味期限:2014/06/23 カンパン100g (未開封)
1個:賞味期限:2028/09/12 サバっと缶 水煮 (未開封)
1個:賞味期限:2025/12/01 ウマっとコーン (未開封)
水の入ったペットボトル1本:82/100
※探索から帰ってきたときに、少し飲んだため消費中。
現在時刻:昼(?)
外の天気:晴れ!
気温:肌寒い(?)
健康状態:疲れているが、健康。
本作の主人公:R =
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