授かりし魔法はパラポンテ

そうじ職人

第1話 王都っ子

 春のそよ風に、背の低い草花が一斉に波打つ。

 広く一面に広がる黄色いタンポポやスミレ、シロツメグサなどの彩り鮮やかな草原の中を、三人の子供たちが走り抜けていく。


 子供たちはそれぞれ、お気に入りの魔杖を片手に魔法名を唱えながら、遊びに興じる。


「僕は風魔法を自在に操るんだ!」


「だったら、わたしは水魔法で辺り一面を水浸しにするわ」


「俺は断然火魔法だな!最強の魔法をぶっ放してやるぜ」


 三人の子供たちは、王都を一望できる小高い丘まで一気に駆け上ると、疲れ切った身体を大地に投げ出す。


「祝福の儀まで、あと八年だよなぁ。早くあの大聖堂カテドラルで魔法を授かるんだ」


 春一番が、少年少女の頬を優しく撫でて、過ぎ去っていった。



 ◆    ◇    ◆    ◇    ◆



「アランティよ。支度は済んだか?」

 お爺ちゃんが、戸口まで見送りに起きてきた。


「具合悪いんだから、起き出しちゃ駄目だよ。僕はバリバリの王都っ子だからね。きっと魔法を授かって、貴族に復帰して見せるよ」


 僕は成人を迎えるこの日を、心待ちにしていた。


(僕も今日で16歳になるんだ)


 とは三代以上貴族の地位に居て、様々な事情で魔法の祝福を受けた者が絶えてしまい、貴族の地位を失った者たちのことをそう呼ぶ。


(市井では没落貴族って、揶揄って使われてるのも知ってるけど)


 僕の両親は二人とも、魔法の祝福を得ていた。

 そして魔法の祝福は、血筋によって色濃く発現することが知られている。

 つまり王都っ子は、市井に生まれたサラブレッドなのだ。


「じゃあ行ってくるね、お爺ちゃん。これから大聖堂カテドラルに行って祝福を受けてくるよ」

 僕はお爺ちゃんに明るくそう言うと、騎士のローブを翻して軽く手を振りながら大聖堂カテドラルに向かった。


 王都の街並みは綺麗に切り取られた石造りの家々が立ち並び、上下水道が整備されているので、衛生的に文化的な生活が送れる。

 大聖堂カテドラルに向かう道には街路樹が林立しており、街の景観を美しく彩っている。


 途中の広い公園パティオで、幼馴染のバンデルとアリシアと待ち合わせをしていた。

 僕は神話をモチーフとした大理石の彫像から、吹き上げられる噴水が見えてくると大きく手を振った。

 噴水の台座脇に設えられたベンチには、茶髪で大柄な騎士服の青年と、綺麗に纏め上げた金髪にドレス姿の清楚な少女が、手を振り返しながら立ち上がるところだった。


「お待たせ。さあ一緒に大聖堂カテドラルに向かおう」

 僕は白く荘厳に聳え立つ建物を指さして、二人に声を掛けた。


「そうね、いよいよだわ」

 アリシアは緊張気味に、愛用の魔杖を抱きしめていた。


「早く儀式を受けたいよな」

 バンデルも頷きながら、僕の指差す先を見詰めていた。


 三人は連れ立って、祝福の儀に向かうのだった。

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