史上最弱のS級ソロ探索者が弱小配信者のキャリーをする件について
カラスバ
第1話
才村内斗という人間、つまり俺の事だが。
この現代社会において俺は極めて才能のない人間である。
より正確に言うと、俺が産まれる前から存在している、この世に存在していて人々に富と死を与えたエリア――ダンジョン。
それの攻略に必要な能力値というものを、俺は一切持ち合わせていない。
……筋力、防御力、魔力、速力。
この四つのステータスの値がすべてFFF。
スリーエフというステータスを有しているのは俺が史上初らしく、だから名実共に俺は史上最弱の人間なのであった。
ていうか最弱という方向性でユニークなステータスを有しているというのは、なんだか特別なような気がして気持ちが――いや良い筈がないな、うん。
そんな訳で俺はステータスがクソ雑魚という理由があったからダンジョン攻略を行う探索者になるなんて絶対にありえない、とそのように思っていた時期は確かにありました。
しかしいざ蓋を開けてみると、どうでしょう。
いつの間にか、日本で数人しかいない【S級探索者】になっているではありませんか!!
……ひそひそ、と陰口が囁かれるのを聞く。
いや、本人の耳に届いているのならばそれはもはや陰口ではなくただの悪口なのではないだろうか?
探索者協会、その支部の一つに今回の探索において得られた情報、そしてダンジョンでのみ得られる【トレジャー】と呼ばれる代物のチェックをして貰うために訪れた俺の事を、同じく探索者達がジロジロと不躾な目で見てくる。
そんな風に遠慮なくしても問題ないと思われているのだろう。
実際弱いし、だから因縁を付けられても簡単に返り討ちに出来るとかそんな風に考えているに違いない。
俺も俺でそんな奴等の相手をするつもりはないのでさっさと報告だけをして帰路に着いた。
「ねえ、どんなインチキしてるんだろうな?」
「雑魚が、あのダンジョンをソロで攻略出来る訳ないだろう」
「ズルしているに違いない」
「どうして探索者協会は黙っているのかしら?」
そんな悪口、何度も聞いた。
だけど、これを聞けている内が花なんだよなー、とは思っている。
俺が今もなお最弱でありながらソロで活動をしている理由。
最弱でありながら【S級探索者】の座を得られた理由。
……ソロ活動をせざるを得ない理由。
それは、俺が有している一つの能力が原因だった。
【シンクロ】。
それは俺が唯一持っているスキルであり、すべてであった。
効果は極めて単純であり、俺が認識している『すべて』に対して、俺の能力値を押し付ける事が出来る、というものである。
つまり、例えば目の前にモンスターがいたとしよう。
それは世界をたった数秒で滅ぼせる能力値を持っていたとする。
だとしても、俺の【シンクロ】が発動したら、それは瞬く間にすべての能力値がオールFFFになってしまうのである。
勿論俺の能力が上昇する訳でもないのでそこからは本当に泥仕合なのだが、俺は史上最弱の探索者として万全の用意をして事に及んでいるのに対し、相手はいきなり最弱を押し付けられる訳だ。
その差は勝敗に直結するし、実際だから俺は成功を収めて来たのだ。
とはいえ、この能力【シンクロ】を知られる訳にはいかない。
だって、これを知られたらいろいろな人間に『カモられる』だろうから。
俺が敵を弱くし、その相手に協力者が敵をボコボコにする。
それは一見見事なチームワークに見えるだろうが、しかし俺とその協力者との間には明確な上下関係が産まれてしまう。
そして俺が相手に強く出る為には【シンクロ】を使わなくてはならない。
そういう関係性は、なんか嫌だった。
そんな訳で今日も今日とて俺は史上最弱の【S級探索者】としてソロ活動をしていた訳だ。
現在、俺は20歳。
探索者として活動を始めたのは18の時からで、現状かなりの貯えを得る事が出来た。
ぶっちゃけ豪遊しなければ死ぬまで生きていける程度には余裕がある訳だが、しかし探索者協会的には【S級探索者】の称号を持つ者をいきなり辞めさせる筈がないだろう。
そして、俺も俺で別に辞める理由はないから現状惰性で続けている訳で。
「……ん?」
と。
現在俺は帰路に着いていて家への道をゆっくりと散歩のような歩幅で歩いていたのだったが、そこで何やら不審な見た目の人物を発見する。
それは少女だった。
いや、本人は極めて平々凡々な顔立ちをしているのだが、その装備が奇天烈だった。
自撮り棒、そこまでは分かる。
ただ、もう片方の手に握られているラバーカップ、トイレのすっぽんはなんなんだ?
「えー、これより通販で購入したユニーク装備『チートすっぽん』の能力検証を行っていくつもりでして~」
なんか自撮り棒に向って話しかけている。
……?
「では、今回はこれを使ってダンジョンに潜っていきます!」
そんな装備で大丈夫か?
史上最弱のS級ソロ探索者が弱小配信者のキャリーをする件について カラスバ @nodoguro
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