第18話 ランベルトはホットなキャンディーの方がお好き


「レオン皇帝陛下、こちらをご覧になってください」


 そう言うと、カデルが用意してくれた薄い本を差し出す。

 私とオリヴィアの二人で考えた18禁のショタ同人誌。

 作品名は……。

 『ランベルト様は、おじさんのホットなキャンディーが忘れられない』

 


「珍しいな……このような色鮮やかな書物が貴国には存在するのだな」


 表紙の可愛らしい少年だけを見て、まだ内容は分かっていないようだ。

 全編カラー同人誌に触れて、その製法に驚くレオン皇帝。


「フッ……」


 思わず声が出てしまったわ。

 その中身を知らない皇帝の姿を見ると、どうしてもね。


 物語の内容はこうだ。

 現実世界に転移した第三王子のランベルトは、見慣れない日本の公園を見て興奮する。

 しばらく、すべり台で遊んでいると喉が渇き……。

 そこへ知らないハゲのおじさんが声をかけてくる。


『坊や、見かけない子だね?』

『うん! 僕はランベルト。第三王子なんだ』


 ゲームの世界から転移してきたことなぞ、おじさんは気にせず。

 ランベルトの太ももばかり眺める。

 

『へぇ、王子様なんだ。ところで今日は暑いね。アイスでも食べないかい?』


 とアイスキャンディーを差し出す。


 初めてアイスを見たランベルトは大喜びし、その場で食べ始める。


『どうだい? 美味しいかい?』

『うん! とってもおいしいよ! でも、大きくて太いから食べにくいや……』

『そうか……じゃあ、”こっち”のならどうだい?』


 おじさんはそう言うと、何を思ったのかズボンを……。

 と言った感じだ。


 レオン皇帝は黙って、同人誌を眺める。

 眉間に皺を寄せて。

 ページが進むたびに、顔が真っ赤になっていく。


 読み終えたころには、同人誌をテーブルに叩きつけた。

 そして、イスから立ち上がると怒鳴り声を上げる。


「謀りおったなぁ! ユリ・デ・ビーエル!」


 そんな彼の顔を見て、私は笑みを浮かべる。


「一体なんのことですか? レオン・アンドレ皇帝閣下」


 私は確信していたのだ。

 彼が、レオン皇帝がショタコンであることを。

 あのランベルトに対する、動揺や態度を見て。


 己の力だけで成り上がった皇帝も、また一人の人間だ。

 性癖だけはどうしても、嘘をつけない。

 だからと言って、現実世界でショタに手を出すのは邪道。

 しかし創作の世界でなら、自由だ。


「ユリ女王! 貴様は私のことを……」

「レオン皇帝……悪いことは言いません。自分に噓をつくなんて、とっても悪い生き方だと思いますわ」

「くっ……」

「自分の性癖は、受け入れてあげましょう」


 私のその言葉を聞いて、レオン皇帝は力が抜けてしまったようで、イスに腰を落としてしまう。


「全て、見抜かれていたか……私も老いたものだ」

「いいえ。老いたのではありません。むしろ今日からが始まりだと言えるでしょう!」

「何が始まったというのだ?」

「レオン皇帝はショタを愛し、今まで共にした剣とは別れを告げるのです!」

「私に剣を捨てろというのかっ!?」

「ペンは……いや、『ショタは剣より強し』という言葉をご存知ありませんか!」

「は? それよりこの作品、いくらで譲ってもらえる?」

「それはサンプル本ですので無料で差し上げます! もし、もっと欲しいのならば、今度開催されるコミケへ来てください」

「う、うむ……」


 こうして、レオン皇帝の侵略を無事に阻止できたのだった。

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