第17話 勝利を確信したユリ・デ・ビーエル


「あの、ユリお姉ちゃん。こんなところで一体なにをやっているの?」


 と首を傾げる少年。

 まだ10歳だから、政治のこととか聞かされてないのよね。

 ボールを両手に持ち、私の方へ近寄る。


「あ、あのね……ランベルト。今、お姉ちゃん忙しいのよ。どこか他の場所で遊んでくれるかしら?」

「えぇ~ 嫌だぁ! 暇なんだもん!」


 頬を膨らませて、女王に歯向かう少年。

 まあ可愛いから許してあげたいところだけど……皇帝レオンがこちらを睨んでいるから、どこかへ行かせないと。


「ねぇ! ユリお姉ちゃん。遊ぼうよ? ボールを持ってきたよ!」

「だからね……さっきも言ったけど。今お姉ちゃんは、あのおじさんと大事なお話をしていて……」

「もういいよ! じゃあ、あのおじさんと遊ぶもんっ!」

「って、あっ……」


 なにやっているのよ、あの子っ!

 相手はこっちの国へ侵略しようとしてきた、怖~い皇帝様なのに。

 そんなことも知らず、レオンの元へ走り出す。


 あの子は、ああ見えて私の大事な素材。

 今日も私の大好きなファッションで、城内を歩いている。

 トップスはシンプルに白のシャツなんだけど、首元にブラウンのネクタイをつけているし。

 サロペットのショートパンツを履いているから、細くて美しい両脚が拝めるのよ……。


「ねぇ、おじさん! なんて名前なの?」


 とレオンの前に、自身の顔を突き出すランベルト。

 くっ! こちらから見ると、ショタっ子が小さな尻を突き出して見えるのよね。

 このままでは、彼が殺されてしまう。

 

「私の名を……知らぬと申すか?」


 めっちゃ怒ってるわ。

 眉間に皺を寄せて、ランベルトを睨んでいる。


「うん! だっておじさん。この宮殿で見たことないもん」

「そ、それもそうだな……。我が名はレオン・アンドレ、数多の国を蹂躙してきた皇帝であり……」


 と言いかけた際中だが、何も知らないランベルトが話を遮る。


「おじさん! そんなことはどうでもいいから、ボール遊びしない?」

「貴様……私にそのようなことをしろと言うのか?」

「当たり前だよ。おじさんと僕は、もう大切なお友達だもん」

「なっ……」


 言葉を失うレオン皇帝。

 そして、その後どうなったかと言うと、ランベルトとレオン皇帝によるボール遊びが始まったのだ。

 球を蹴って喜ぶ元第三王子。対照的に黙って球を蹴る皇帝。


 どうして、こうなったのかしら?


  ※


「じゃあね、レオンおじさん! また今度遊んでね。約束だよっ!」


 会談をめちゃくちゃにしたランベルト。なぜか終始、笑顔で満足そうだった。

 彼が去っていくと、顔を真っ赤にして元の席へ座り直すレオン皇帝。

 咳ばらいした後、ようやく口を開いた。


「まあ、その……子供というものは、ああいうものだな」


 あれ? なんかちょっと照れてない? この人。

 まさか!? ひょっとして……いや間違いない!

 そう確信した私は、急いで指を鳴らす。

 すると、部屋の扉が開き、カデルが現れた。


「失礼します、レオン皇帝。女王陛下に呼ばれたもので……」


 そう言うと、私の方へ近づく。


「何用ですか? 陛下」


 私は耳を近づけるようにカデルを促すと。

 こう囁いた。


「カデル、今オリヴィアと共同で作成している”新刊本”を持って来て欲しいのよ」

「なっ!? あれは確か地雷が多いと、女王陛下が言われていたじゃないですか?」

「大丈夫よ。間違いないと確信したのだから……」


 勝利を確信した私は思わず、口角を上げてしまうのだった。

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