第11話 百合で兄弟仲良く


「答えろ、ユリっ! 貴様がカデルをこんな状態にさせたのかっ!?」


 ヤバい。アホのアラン王子がめっちゃキレてる。

 持ち前の赤髪より、顔を真っ赤にして私を睨んでいるわ。

 どうしましょ?


「えっと……アラン王子。カデル王子は自らそうなったんですよ」

「そんなはずはない! 自慢じゃないがこのマジーナ王国で、一番博識な男だ。父上や私のためなら命も捧げるというのに……」


 それが今じゃ、百合好きの大型コピー機だものね。

 参ったわ。ここまで兄弟愛が強いとは……。


 アラン王子は、近くに並べてあった同人誌を手に取る。

 今、白目で倒れている弟が、大量複製したものだけど。

 表紙を睨みつけると、何を思ったのか、床に叩きつけた。

 そして、革靴で踏みにじる。


 これには、私も声を上げて驚く。


「な、なにをやって……」

「やかましい! このような低俗な書物などっ! こうしてくれるっ!」


 ビリビリと破れる音が、部屋中に響き渡る。

 いくら第一王子と言えども、人が一生懸命、時間をかけて作ったものを……許せない!

 アランの頬を一発、平手打ちでもしてやろうと思ったけど。

 私より先に動いたのは、この部屋でアシスタントをしてくれていた兵士たちだ。


 たった5人の少数気鋭の部隊だが、王子より遥かに背は高く、筋骨隆々とした男たちだ。

 無言で立ち上がると、アラン王子を囲み、腕を組んで上から睨みつける。

 これにはアランも怯んでしまう。


「な、なんだ貴様らっ! この私に歯向かうのか? たかだが兵士の身分で!」

「……百合、踏ムナ。コノ世、最モ尊イ存在」


 徹夜の作業で疲れているのかしら?

 なんだか知らないけど、カタコトになっているわ。


「無礼者っ! 私に歯向かうということは、命は惜しくないのだな! そこへなおれ!」


 そう言うと、アランは腰に差していた銀色の剣を抜いて、兵士たちに刃を向ける。

 しかし、兵士たちは依然として無言を貫き、腕を組む。

 まるでアランの剣など、自分たちには効かないとでも言いたげだ。


「そうか……丸腰でも私に勝てると言いたいのだな? ならば、お望み通り斬ってくれる!」


 そう言ってアランは、剣を振り上げた。

 さすがの私も流血騒ぎは怖いので、瞼を閉じる。

 しかし、しばらく待っても悲鳴などは聞こえてこない。


 恐る恐る、瞼をゆっくり開く。

 するとそこには……。


「兄上っ! その前にこちらをご覧くださいっ!」


 弟のカデルが騒ぎを聞いて、目を覚ましたのだ。

 兵士とアランの仲裁に入ってくれたみたい。

 アランは剣を振り上げたまま、固まっている。


「な、なんだこれは……私の婚約者、オリヴィアではないか? 隣りにいるのは、使用人のザリナ。なぜ二人がお風呂になど……」


 気がつくと、アランの瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。

 振り上げた剣は床に投げ捨て、弟が差し出す薄い本を手に取る。


「兄上。いいですか? 落ち着いて聞いてください。今、兄上に起きている現象は、キマシタワーであり、てぇてぇなのです」

「こ、これが……てぇてぇ? キマシタのは私?」


 次の瞬間、百合を分かち合った兄弟は、泣きながら抱きしめあう。

 

 うんうん。兄弟は仲良くしないとね、ついでだからハグしてる二人もデッサンしておこっと。

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