第10話 無料印刷所
このマジーナ王国の第二王子、カデルを洗脳……いや、調教した私は兵舎から追い出され、処刑台へ……。
なんてことには、ならない。
むしろ、宮殿内の男性たちに百合文化を布教した”神の使い”、”聖母”として皆から崇められていた。
私は兵舎の暮らしで満足している、と言ったけど。
弟子になったカデル王子が「そのような粗末な場所で、寝泊まりされては困ります」と宮殿内に新しく部屋を用意してくれた。
暗く嫌な臭いが漂う地下牢から、いきなりラグジュアリーな部屋へ早変わり。
「なんかホテルみたいで、落ち着かないな……」
そう私が呟くと、隣りに立っていたカデル王子がニコリと微笑む。
「ユリ様、いえ先生には、これからも私共にご教示していただかなければ、なりませんので」
その場で片膝をつき、頭を下げる。
「ほう……私から創作を習いたいと申すか? カデルよ」
「はっ! ユリ様にしか描けない作品を私も見て知りたいのですっ! そして、布教する際に私の魔法が使えると思うのです」
「カデルの魔法って……」
「私の能力は、”コピー”です」
そう言うと、私が作った百合同人誌を左手に持つ。反対の右手は空っぽ。
「ふんっ!」
カデル王子は詠唱も無しで、魔法を発動した。
彼が言った通り、コピーされたのだ。
左手にあった百合同人誌がなぜか、右手の上にもある。
「こ、これは……」
「はいっ! 私の能力があれば、ユリ様の布教をお手伝いできるかと」
「カデルよ。今日からお前は……私の一番弟子だ」
「はっ! イエス・ユア・マジェスティ!」
マジかよ……無料の大型コピー機じゃん。
カラー入れて同人誌を作っても、無料で刷れるとかチートすぎ。
持っていて良かった煩悩とカデル王子。
その日から、私とカデルだけの……二人きりの共同作業が始まった。
~一週間後~
カデルが用意してくれたラグジュアリーな部屋なんだけど……。
数日もしないうちに、作業部屋と化していた。
兵舎で見どころのある兵士を数人、アシスタントとして手伝ってもらっている。
それに出来上がった同人誌は、カデルの魔法で、大量複製してもらわないと。
連日、魔法を連発するため、彼の”マジックポイント”は枯渇しがち。
ま、一日休めば大丈夫でしょ!
そんなことを毎日していると、噂を聞きつけた第一王子のアランが私たちの聖地に、土足で踏み込んできた。
「おいっ! 貴様ら仕事を放っておいて何をやっている!?」
その問いに、アシスタントと化したモブ兵士が平然と答えた。
「はい? 百合マンガの制作中です。締め切りが近いので話しかけてないでくれますか?」
眼鏡をかけ直して、視線を原稿に戻す兵士。
うむ、良い心がけね。
「貴様っ! 私は第一王子だぞ? なんて口の聞き方だ……それより、カデル! 貴様も第二王子という身分を忘れたのか!?」
アラン王子は弟を怒鳴りつけるが、反応が無い。
「……こ、コピーをしなきゃ」
徹夜で何百冊と同人誌を、コピーしているから力尽きたのね。
美しくて碧い瞳は白目になり、口からよだれを垂らしているわ。
上出来よ。
「カデルっ!? 一体どうしたと言うのだ! まさか……ユリ。貴様の仕業かぁ!?」
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