第12話 ククッ、ヴァカめ……
◇◇◇
「ご、ごめんね!! ルシ君!!」
むにっ……
目を覚ました俺は力いっぱいに顔面を抱きかかえられながら謝罪を受ける。レティアノールの華奢な腕が生えそろっているのは、まぁそれはそうなんだろうが……、さすがというかなんというか……、うん。
おっぱいってヤツは偉大だ。
「ルシ君! なんでもする! レティにできる事ならどんなことでもするからっ!! ごめん! 許してほしい!!」
もにんっ、もにんっ、もにんっ……
これは全てを許してしまいそうになる魔法だ。
究極スキル《おっぱい攻撃》の前には俺でさえ、意識を奪われ……ってアホか。
「セ、セシリア!! 流石に俺を守っておけよ!」
潰れていた左腕と右脚は、予定通り完治している。
流石に俺のことが嫌いでも、俺なしでの深淵(アビス)は考えられないだろうと、応急処置すらせずに意識を失ったが、これは斜め上の展開だ。
「うぅうぅ……」
チラリと視線をあげればみるみる銀色の瞳を潤ませていくレティアノールと、悪びれる様子もなく小首を傾げるセシリア。
「はぁ〜……レティアノール。とにかく離してくれ……」
ポツリと呟くとレティアノールは俺を解放する。髪色も純白に戻り、元通りのレティアノールなのはわかるが……。
「……本当にごめんね」
「……説明してくれ。アイツは……“ノール”ってのは?」
「“もう1人のレティ”……って言えば伝わるかな?」
「……頻度は? 原因は?」
「……こ、ここ100年はなかったよ? 今はルシ君との戦闘でノールは消耗してるし、今ならレティのほうが魔力を持ってるから大丈夫……。げ、原因は……、レティの魔力状態と精神状態……かな」
「……はっ?」
「い、今は大丈夫だから安心して!! 本当にごめん……。レティが考えなしに会いに来ちゃったから……。ごめん……」
「はぁ〜……。“ミランダ”は? まさか黙ってきたのか?」
「ううん。……お師匠様にはちゃんと報告してる」
「そうか……」
正直、心当たりがないわけじゃない。
レティアノールの師である“ミランダ”。あの美魔女も時折り人が変わったように凶暴化することがあった。
レティアノールが攫われた時は街一つが一瞬にして灰と化してしょんべんが漏れそうになったほどだ。ドロドロの魔力も、髪が黒に染まるのも同じだったし……。
まぁ……、【魔女】の特性と考えるのが妥当だ。
――ククッ……おっかないのぉ……。
“ジジイ”が楽しそうに笑っていたのを覚えている。その夜、2人がハッスルしていたのも覚えている。(まだ健在なのかよ、このジジイ……)なんてドン引きしながらのぞいていて、次の日半殺しにされたのも覚えている。
……って、んなことはどうでもいい。
重要なのは……、
――レティにできる事ならどんなことでもするからっ!!
言質は取ったってことだ。
「レティアノール。……許してやるから俺の奴隷になれ……」
「ぇっ……ル、ルシ君……?」
「聞こえなかったか? 俺の奴隷になれって言ってるんだ、レティアノール」
「……」
「ノールの時も心臓が1つなのは視た。魔女を殺すには心臓を止めるしかないだろ?」
「……そぅ、だけど」
「……また殺り合うのはごめんだ。“2戦目”は正直どうしようもない……。殺さなかったのはお前だからだ。“手札を見せた『敵』は確実に息の根を止める”……。それが俺の方針なのは知ってるだろ?」
「……ッ!!」
「ノールが出たときのための対応策だ。本当に申し訳なく思ってるなら……。“なんでもする”って言うなら……。俺の奴隷になるんだ、レティアノール……」
「……ぅ、うん! なる!! レティ、ルシ君の奴隷になるよ! ……そっか。そうだよ! はじめから奴隷になっちゃえばよかったんだ!!」
パーッと笑顔を浮かべるレティアノールだが……、コイツ本当に意味がわかっているのだろうか? まあ確認なんかするわけがないが……。
奴隷にしてしまえばレティアノールもノールも“俺のモノ”だ。命の危険もなく最強の魔術師をアゴで使える。
エロいことも……デュフフフッ……。
「ぉ、お待ち下さい。レティアノール様、“奴隷”なのですよ? よく考えてかは、」
「セーシーリーアァア!! お前には無理矢理にでも《誓約書》にサインしてもらう!」
「そ、それは私も奴隷に、」
「ちっがぁあう!! 俺の素性、実力、戦闘方法から【鍵師】のスキルのあれやこれや……。お前が知り得た“ルシア・シエル”に関する全ての情報を秘匿するという《誓約》だ」
「……」
「それともなにかぁ? お前も奴隷になっちゃいたい感じ? さすが“アブノーマル聖女”! 脱帽だ! 女騎士でもないくせに“くっころ”、」
「あっ、あり得ません!! 《誓約》に関しては承知致しました。ですが、レティアノール様を奴隷にするなど、」
ポンッ……
俺はセシリアの言葉を遮り肩に手を置く。
「“生きて帰す”……。俺はお前にそう約束した。俺はクズではあるが、自分の発言には責任を持つ。それが師の遺言であり、俺が俺であるために必要なことだからだ……」
「……」
「そう言えば、礼がまだだったな……。ありがとう。セシリアなら傷を癒してくれるって信じていたぞ……」
「い、いえ。私が受けた恩を考えれば当たり前のことです……」
セシリアはほのかに頬を染めて視線を逸らす。
ふっ……、ちょろい。
ちょろすぎる。さすが生粋のド変態。擬似野外レ○ププレイをするような頭ゆるゆるのおバカさんだ。
「なにを言ってんだ? ……俺が勝手に連れ出したんだ。俺はお前を守る責任がある……。そのためにはなんだってするさ……」
「……」
「ふふっ、変わらないね! ルシ君!! ……337年経っても……ルシ君はやっぱりルシ君なんだね……」
黙りこくったセシリアと頬を染めてはにかんだレティアノール。
ククッ、ヴァカめ……。
とりあえず、レティアノールを奴隷にできればあとはどうにでもなる。罪悪感に押しつぶされているレティアノールを陥落させるなら今だ。
ってか、奴隷にしなきゃ、次は死ぬ。
“2戦目”がどうしようもないのはガチなんだ。
魔力の貯蓄はほぼゼロ。
今の《空気施錠(エア・ロック)》ではノールの魔術はもちろん、クリスタルゴーレムの攻撃も受け止められないだろう。
奴隷にするんだ。
……ど、奴隷。なんて甘美な響きなんだ!!
テンプレっぽい。うん。テンプレっぽいぞ!
グヘヘッ、全肯定奴隷でハーレム作っちゃおうかな!!
「で、ですが、“奴隷”を所有するのは犯罪なのですよ!?」
「……」
「奴隷は非人道的であると20年前に、」
「さっきからうるせぇな、セシリア!! “ユティクス大陸”や魔境大陸、リーリャエンティン大陸、……世界的には合法なとこもあるんだよ!!」
「ゆてぃ? くす? 大陸……?」
「ああ!! “北極かよ”ってくらいクソ寒くて、裸になったら3秒で凍死するようなクソ大陸!! 唯一の国は活火山だ!! 噴火すりゃ即死! もう2度とあの国には行かない!! 服を脱がすだけで夜が明けるわ!! 日の出なんか拝めねぇけどなぁ!!」
「……は、はぁ、そうですか。魔境大陸では未だ奴隷制度が残っているのは承知しておりましたが、その他にも……あるのですね……」
「…………いや、そもそもここは深淵(アビス)じゃん? もちろん、帰還したらちゃんと解放するよ?」
「…………」
「……ジト目やめろ」
「……」
「おい」
「……ぃ、いえ、確かにあなたの言い分も理解できます。レティアノール様がまた暴走した時のことも考えれば当然の処置のようにも思います……。それに……、この深淵(アビス)で『非人道的』な行いはできないでしょうし……」
「……ってか、セシリアの許可は必要ない」
「そ、それは、」
「レティアノール。俺とお前の問題だ……?」
俺はレティアノールに視線を向けると、そこにはそれはそれはエッチぃ黒の下着だけをまとった美女が立っている。
「ルシ君。“奴隷紋”はどこがいいかな? レティは薬指か、お胸……おへその下……腰でもいいかな。ぁっ。でも腰にするなら、ルシ君が描いてね?」
ゴクリッ……
俺の喉が鳴ったのは言うまでもないだろう。
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