天職【鍵師】の転生者、勘違いで『勇者』を屠ってしまう〜悪漢から美女を助ける系のテンプレだと思って助けたら、アブノーマルなプレイを楽しんでいた勇者と聖女でした〜

第1話 勇者を屠ってしまった



  ◇◇◇◇◇


 ――シスカ大森林



「いやぁあ! や、やめて下さい! 誰か!! 助けて下さいッ!!」


「こんな森深くで助けなんて来るはずがないだろ? おら、じっとしろ!!」


「や、やめっ……!!」



 ビリビリッ!!



「いやぁああ!!」



 衣服を裂かれた美女は泣き叫び、低ランク冒険者風の装備を纏っている男は、欲情した表情でペロリと唇を舐めた。


 ガッ!!


 片方の手で露わとなった豊満な乳房を乱暴に掴み、もう片方の手で髪を掴み上げる。



「ぃ、や……やめてくださぃ……」


 カタカタと震える美女に男はゆっくりと顔を寄せる。だが、唇が触れそうになったその瞬間……、



 スパンッ!!



 目の前から男の顔が無くなり、美女を拘束していた圧が消える。美女は呆然としながら頬に浴びた血を拭うが、ドサッという音にビクッと身体を震わせて我に帰る。



「お嬢さん、怪我はないか?」



 そして、美女は手を差し出される。


 無造作に伸びた黒髪は長く、暗くて重い黒紫の瞳。整った容姿ではあるが、目の下のクマと胡散臭い笑顔が全てを台無しにしているような、そんな見知らぬ男に手を差し出されたのだ。



 視界の隙間からは首と胴が離された“自分を襲っていた男”。首からの出血は血の海を作り、コロコロコロ……と転がった顔はこちらを向いていて、開いたままの眼球が絶命を示唆する。



 ドンッ!!



 美女は手を差し出してくれた男を突き飛ばし、自分を襲っていた男へと駆け寄りながら叫んだ。



「なっ、なにをしているのですか!! この方は勇者なのですよ!! 勇者を殺害するなどッ!」



 その叫びはシスカ大森林に響き渡った。




  ◇◇◇




(……えっ? ドユコトデスカ……?)



 カタコトになるくらい許して欲しい。

 俺は目の前の状況を馬鹿みたいに傍観していた。



「勇者様! 勇者様!! 帰ってきて下さい! 《完全治癒(パーフェクト・ヒール)》! 《完全治癒》!! 《聖浄化(ホーリーパージ)》、《聖光福音(ホーリーゴスペル)》!」


 ポワァア……


 眼福でしかない半裸の女は絶命している男……つまりは自分を襲っていた男を必死に治療している。


 ……いやいや、どう考えても無理だ。

 この世界では死んだ人間は生き返らない。

 確実にもう手遅れだ。


 ……殺したのは、俺。ルシア・シエル。

 どこにでもいるソロのCランク冒険者……。



「なっ、んで……!! ア、アナタっ!! なんてことをしてくれたのですか! どう責任を取るおつもりです!? 《聖浄化(ホーリーパージ)》!!」


 このクソテンパって俺を罵倒しているのは『聖女』だ。聖女“セシリア・ガルシアーノ”。めちゃくちゃいい女だから覚えている。


 背後から一撃だったからわからなかったが、死んでいるのは勇者だ。勇者“アーサー・エル・ドラゴニア”。イケメンでムカついたから覚えている。


 “動画新聞”……動く写真付きの新聞を破り捨てたのは記憶に新しい。



「《完全治癒(パーフェクト・ヒール)》! 《完全治癒(パーフェクト・ヒール)》! ハァ、ハァ……、《聖光福音(ホーリーゴスペル)》!」



 ポワァア……



(半裸で汗だくって、なんかエロいな……)


 真っ白い肌。形のいい巨乳にはピンクの突起。細い腰に肉付きのいいお尻はくびれが強調されてて俺好みだ。汗で張り付く髪は金色で、涙で輝いているパッチリとした紺碧の瞳も評価は高い。



「ハァ、ハァ、ハァ……」



 魔力消費は相当なものだろうに……。

 聖属性の最上位魔法?を連発すれば、聖女といえど……、うん、やっぱエロいな……。



(…………って、違うだろ!!!!)



 はっ? 勇者? 聖女? なにそれ!? 


 俺は日銭稼ぎのクエストの帰り道に悲鳴を聞いて、(テンプレ、キタァァ!!)って駆け出して、かなりの美女にテンションがぶち上がって……。


 何年かぶりの『異世界テンプレ』に……。

 ……お、おいおい! 盗賊とか悪漢に襲われてる女を助けて、秒で惚れられてイチャイチャムフフってなるはずだろ?


 それが……どうしてこうなった!?


 久しぶりにご都合主義全開で、セックスできる美女を助けただけなんだぞ? 超合法的にご無沙汰だった性欲を解消しようとしただけなんだぞ……?



「《完全治癒(パーフェクト・ヒール)》! ゴ、《女神の雫(ゴッズドリップ)》!!」



 スゥウウ……



 聖女の魔法に効果はない。最後の希望を断たれたかのようにみるみる青ざめていく聖女と、もちろんピクリともしない勇者。



「……なっ、なんなのですか、アナタは!! これがルベリアル王国民にとって、どれだけの損失なのか理解しているのですか!? ……《聖浄化(ホーリーパージ)》! 《完全治癒(パーフェクト・ヒール)》!!」



 聖女は悪態を吐きながら無意味な治癒を再開するが、俺は苦笑しつつ顔を引き攣らせる。


 ま、待て待て。


 い、言ってた。言ってたよね?

 “助けて”って!! “いやだ”って!!


 ……た、確かに下心はありました!! あったよ? そりゃあったさ!! でも、善行だろ! 俺はこの女を助けただけじゃん!!


 え、待って。……これ、俺が悪いのか?

 感謝こそされ、罵倒されるのはおかしいだろ!?



「ハァ、ハァ、ハァ……」



 聖女は力無く勇者の胸に顔を埋める。



(あっ……。そゆこと……?)


 俺は空気を読める男だ。

 だいたいの経緯は察してしまった。


 ゆ、勇者と聖女が……?

 うん、にわかには信じがたいが、“そう”なのだろう。要するに、普段では得られない“刺激”を求めたってことなんだろうが……。


 

 パチッ!!

 


 唐突に顔を上げた聖女は俺をキッと睨む。



「有り得ません……。有り得ません!!」


「ぇっ……?」


「なにをボサッとしているのです!?」


「えっ? ……あぁ。少し混乱してて」


「混乱している場合ではありません!! 自分がなにをしたのか理解しているのですか!? 魔力回復薬(マナポーション)を私に提供したり、誰か人を呼んでくるなどっ! なにかっ……なにか自分にできることを考えなかったのですか!?」


「……す、すみません……?」


「“すみません”で済む問題ではありません!! このお方は『勇者』なのです! ルベリアル王国の指名勇者なのですよ!? うっ、うぅ……」


「ま、誠に申し訳ない……?」


「どうすればよいのです!? なぜこのようなことになってしまったのですか!? な、なぜ……なぜこのようなことに……」



 聖女は勇者の胸に突っ伏し「ど、どうすれば……」っと静かに泣き始めた。


 恋人だったんだよな?

 ……ああ。まぁそうなんだろうな。でないと、説明がつかないことがある。それもただのカップルってわけでもないはずだ。でないと、説明がつかないことがある。


 それにしても……、“なぜ?”だと……?

 そんなことはわかりきっているだろう……?


 先程から俺は責められているが……、ふざけるのも大概にして欲しい。


 とりあえず、一ついいか……?





「勇者だか聖女だか知らないけどなぁ……、アブノーマルなプレイしてんじゃねぇ!!!!」





 俺の心の叫びが響き渡ると、泣き顔の聖女は俺を見上げてポカンと口を開ける。



「確かに俺が殺(ヤ)ッたよ? それは事実だ。完璧に認めるし、それについての罪は償ってやるよ! 『勇者』ってのは弱者にとっての希望であり精神安定剤だもんなぁ!?」


「……」


「俺が奪ったんだ! 国民共には俺を責める権利はあるだろう!! だが、黙って過剰の罪を償うつもりはないぞ!?」


「……ぇ」


「お前らが変態プレイしてたんだろ? 俺は“助けて”って聞こえたから助けたんだ! お前を犯そうとしてた“悪漢”からなぁ!!」


「なっ……」


「蓋を開けてみりゃ、『勇者』だぁ? 助けるのに必死だったんだ。顔なんて確認している暇はなかったんだよ!!」


「そ、それは……」


「なんだ? 弁解してみろ! 服装も低ランク冒険者と変わらねぇし、お前だって聖女のローブじゃねぇよなぁ? そりゃわざとビリビリに引き裂くんだから、聖女のローブってのも無理な話だ!」


「い、いえ、それは、」


「俺が全部悪かったのか!? 違うよなぁ? 仕方ねぇだろ!! お前らの性的嗜好なんざ、知らなかったからなぁあ! そんなド変態なら、ちゃんと全世界に発表しとけ! 紛(まぎ)らわしいんだよぉ!!」


「なっ、」


「俺は『聖女』を助けようとしたわけでもない!! 『勇者』を殺したわけでもい! “お前”を助けるために“クズ”を殺したんだよ!」


「……」




 シィーン……



 森の中が静寂に包まれる。

 聖女は裂かれた服を無理矢理結び直し、身なりを整えてから立ち上がった。



「いっ、一考の余地はありそうですね……」



 聖女は消え入りそうな声で呟き、顔から火が出るのかと疑いたくなるほど頬を染めた。



 なかなか唆(そそ)ったのはここだけの話だ。








*****【あとがき】*****


新連載です!

久しぶりに書いたので、今後ともお付き合いをよろしくお願い致します!!







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