ナインの怒りと動揺

マリーンが返答に困っていると、ランドルの後ろから低い声が響いた。


「近寄るな、お前が相手にしていい方じゃない!」


声のした方を見ると、ナインとリムがランドルの後ろに仁王立ちしていた。


「ルンナから聞いて来てみれば.......ランドル殿、マリ様に告白してらっしゃるのですか?」

「見れば分かるだろう、リムさん。僕はマリちゃんと仲良くなりたいんだよ」

「仲良くなりたいとは、思い上がりも良いところだ!」


ナインが声を荒げた。リムはナインの剣幕にヤレヤレといった様子で口を開く。


「あー、コイツはマリ様に惚れているのですよ。コイツはマリ様に近づく男に片っ端から決闘を申し込んでいるから、あなたも怪我をしたくなかったら諦めた方がいい」


リムがでっち上げのウソを言う。


「何だって?僕は商人だ。剣なんて使えるわけがないだろう。ここは商売人らしくお金で解決させてもらおうじゃないか。君達は資金不足で困っているんだろう?マリちゃんとの交際を応援してくれればお礼はきちんとするよ?」


マリーンはランドルの言葉にカチンときた。


(交際を許可すればお金をやろうだなんて、下品ね!お金の問題じゃないでしょう!?)


「..........ランドルさん、実はね、今日はナインとデートする約束をしていたのを忘れていたわ。あなたのオススメの古城に2人で行ってみようかしら?」


怒ったマリーンは、口から出まかせを言った。巻き込まれたナインは気の毒だが、ルンナが好きなリムを巻き込むわけにはいかない。


「マリちゃん、急にそんなことを言うなんて、僕がお金で解決しようとしたのが気に入らなかった?でも、僕は商人だからコレは何も汚いことじゃないんだよ。分かってくれるよね?それに君を古城に誘ったのは僕だし。相手を間違えないで欲しいな」


ランドルがマリーンの手を取ろうと手を伸ばす。即座にナインがバチンとランドルの手を払いのけた。


「痛い!何をするんだよ!この店を貸しているのはうちの商会だぞ!」

「ナイン!暴力はいかん! ランドル殿、私からきつく叱っておきますので、寛大な男であれば許してやってくれないだろうか」


リムがすかさずフォローしてくれるが、怒っているナインはマリーンの手を取ると言い放つ。


「オレはこれからマリ様とデートに行きますので!」

「おい!マリちゃんは僕と話している途中だぞ!勝手に連れてくなよ!」


ランドルが怒って叫ぶ。一気に修羅場になった。


ナインは、マリーンの手を掴むと自分の後ろへとやる。ランドルを射るように睨みつけるとマリーンを連れて歩き出した。


ナインがズンズンと進んで行くので、手を掴まれて歩いているマリーンは、引きずられるようでたまったもんじゃない。手を掴む力も強かった。


「ナイン!手が痛い!それに歩くのも早い!」


マリーンが言うと、ナインはハッとした様子で手を離して立ち止まった。


「も、申し訳ございませんでした。つい興奮してしまい……」

「ナインが怒ってくれたのは嬉しいけど、あんな攻撃的な言い方したらランドルさんが怒るのも無理ないでしょ」

「ヤツをかばうのですか?」

「そうじゃないってば!あの人の言った言葉はサイテーだったから私も無い話をでっち上げたワケだし。だけど、言い方ってものがあるわ。きっと今頃、リムが必死にフォローしているでしょうね」

「.....アイツは姫様に慣れ慣れしい態度をとって良い立場の者ではありません!」

「ランドルさんは、お店を貸している商会の息子よ。後のことを考えた言い方をしてよね。って、何で私が説教することになるの........とりあえず、このまま薬草採取に行くわよ!」


マリーンはまだ納得がいかない様子のナインを無視して、薬草の生えているエリアへと向かった。


薬草が生えるエリアに来るとマリーンは黙々と薬草を摘む。ナインは黙々と薬草を摘むマリーンの手元を見ていたが、急にガバリと土下座をしだした。マリーンはギョッとする。


「何なの急に!?」

「マリーン様!手首に赤い跡が!!オレが掴んでいたせいで!本当に申し訳ありません!!」

「そのこと? もう気を付けてよね。それよりも、いきなり土下座なんてして言うからビックリしたわ」

「姫様の手首が!赤くなって!」

「ちょっと!落ち着いてよ!」


それからしばらくナインはずっと謝り続けていたのだった......。


「本当に申し訳なく.......!」

「もう何十回目よ? もういいから!頭がおかしくなるわ」

「しかし......」

「そう思うなら、ランドルさんとうまくやってくれない?私もランドルさんとはうまくやるようにするから」

「うまくやるとは.........まさか、アイツと付き合うつもりではないでしょうね!?」

「どうしてそうなるのよ。そうならないようにうまく……ああそうだわ、いいことを思いついた!あなた、私とデートするって宣言してたわよね?」

「あ、あれは勢いというか……」

「それを利用しましょう! 私達、“恋人”のフリをすればいいのよ。そうしたらランドルさんも諦めてくれるでしょう?」

「オ、オレが姫様の恋人?」


ナインの声が裏返った。彼はどうやら興奮すると声が裏返るらしい。


「そう。私とあなたで恋人のフリをするの」

「と、とんでもありません!」


ナインの声はまだ裏返り続けている。よほど動揺しているらしい。


「オ、オレは姫様とは身分も違いますし、年上ですし、女性の扱い方も知らないですし……」

なのよ?あなたが女性に慣れていないのはよく分かるわ。まあ、私だって別に恋愛経験豊富なわけじゃないけど。2人で色々と学びながらやっていけばいいんじゃなくて?」

「そうは言われましても……」


ナインは真っ赤になりながら何か口の中でゴニョゴニョと言っている。これじゃあ、どちらが年上か分からない。


突然、思いついた発案ではあったが、ナインが自分の恋人となればランドルも近づいては来なくなるだろう。


ナインはカタブツで鬼マジメで失礼でズレたところもあるが、体型はガッチリとして顔もイケメンだ。恋人役としてナインは悪くない。


新たな企みにマリーンはワクワクしてきたのだった。

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