酒場にて
ルンナと一緒にテイの酒場に行くと、酒や料理を楽しむ人のにぎやかな声が聞こえてきた。
「ルンナ、頑張ってね!」
関係者入口の方に向かうルンナにエールを送る。リムはとっても心配そうだ。ナインも不安気な表情をしている。
ルンナと別れると、舞台よりも後方に空いた席があるのでそこに座った。マリーンは大きな酒場に足を踏み入れたのは初めてだったので、ついキョロキョロとしてしまう。港での仕事を終えた男達が集う場所だけにフロウの町の酒場とは雰囲気が違った。
「この酒場、何というか……“海賊のたまり場”みたいね」
マリーンがこっそりリムに言う。
「マリーン様にはふさわしくない場所ですな」
「リムはこういう場所に来たことあるの?」
「まあ、ありますね。城での訓練後に、酒場に飲みに行くことはよくあることなんですよ」
「ふーん。でもお城を守る兵士達が酒場に入り浸っていたら良くないんじゃない?」
「ハメを外すような飲み方をするなと、厳しく教育していますからそのあたりは大丈夫です」
「へぇ。お堅いナインも酒場に行っていたの?」
「聞こえてますよ! オレだって、たまには付き合いで行ってました」
「意外ね」
ナインはムスッとしている。
リムとナインはビール、マリーンは果実ジュースを頼み、ほかにも料理を頼んで食事を楽しんでいると、舞台に照明が集まり、踊り子によるダンスショーが始まった。
最初は集団のラインダンスで、皆、同じステップを踏んでいる。何度か見ていたらマリーンもステップを覚えてしまった。途中、踊り子達が脚を高く上げる振付に歓声が起きる。
(ああ、そういうこと。ダンスというか、チラリとセクシーな部分をお客さんは期待しているのね)
そう思うと、宿屋でダンスの練習をしていたルンナが気の毒になった。まわりの客は踊り子の美脚の披露に沸いている。見るとルンナも細い脚を高く上げてニッコリと笑っていた。
ちなみに、衣装のスカートの中は黒いひざ丈までのパンツを身に付けているので生々しくはない。だが、女性は普段、人前で脚を出す習慣は無いので、ひざ下の脚が見えただけでも観客達は歓声を上げてしまうのだ。
「何かイヤらしい」
心の声がそのまま外に出てしまう。リムとナインがギョッとした表情でマリーンを見て焦っていたが、ルンナを心配するマリーンはそのままショーを観るのに集中する。
ラインダンスが終わると、今度は赤や青などの色鮮やかな衣装を身につけた踊り子のソロダンスへと移った。どの踊り子も胸を覆う部分と腰を覆うスカート部分に分かれた衣装でとてもセクシーだった。観客の熱はさらに上がる。
チラリとリムとナインを見ると、何となく鼻の下を伸ばしている気がした。
(やっぱり男ね)
紫の衣装を身につけたルンナが登場すると、ルンナは両手を広げながらウエストのラインがキレイに見えるダンスをして観客を魅了している。妖艶で別人みたいだ。
隣に座ったリムは手を口元にやっていて顔が赤いようだ。ナインはなぜだか目を背けて見ないようにしている。
マリーンもハズカシイ気持ちになったが、大事な侍女が出演しているのだ。しっかりとダンスを確認する。
踊り終わった踊り子達は順番に舞台から降りると、おひねりをもらうために客達のまわりをまわり始めた。
ルンナが舞台を降りると男達が“こっちにこい!”とあちこちから手招きをされている。ルンナは微笑みながら順番にテーブルをまわっておひねりをもらっていた。スゴイ量のおひねりだ。
その時、ルンナに触れようとした男がいてリムが席を立とうとした。だが、ルンナは男の手をうまくかわして男の胸をトンと押して席に座らせる。簡単にしているように見えたが、あんな屈強な体格の男を簡単に座らせるのは訓練された技術があるからだろう。
こちらの席にもルンナが回って来た。リムやナインは恥ずかしそうにルンナを見ている。2人が照れて何も言葉を発さないので、マリーンが口を開いた。
「ルンナ、とても美しかったわ!」
マリーンが言うと、ルンナはパアッといつもするような表情をする。
「えへへ~」
いつものルンナらしい笑顔に何となくホッとした。
ショーが終わり踊り子達がステージ裏に戻ってしばらくすると、化粧を落として着替えてきたルンナが席にやってきた。踊り子の時といつもの印象が大きく異なるせいか、まわりの客はルンナが先ほどの妖艶な踊り子だと気付いていない。
「改めまして、私のダンスはどうでしたか~?」
「美しいし、色っぽいし、すごかったわ! ね、リム?ナイン?」
「ええ。これ以上、誰の前でも踊って欲しくないほどです.......」
と、リムが複雑そうな表情で言えば、
「オレは見ることができなかった……」
ナインはよく分からない感想?を言う。
「え? セクシー過ぎて見られなかったってこと?」
コクリとうなずくナインは顔をまだ赤らめていた。
(子どもか!)
マリーンは心の中でツッコんだ。
「えへへ、そうでしたか」
照れて答えるルンナを気遣うように、リムは自分の隣にルンナを座らせると飲み物や食べ物を取り分けて食べるように勧めている。微笑ましい。
(もうこの2人、くっついちゃえばいいのに)
「リムとルンナ、いい感じよね」
小声でマリーンはナインの耳元でささやくと、ナインが微妙な感じでうなずいた。
「ねえ、彼女達のこと、応援してあげない?」
「え、オレ達がですか?」
「だってリムは新しい恋に踏み出そうとしているように見えるわ」
「そうでしょうか? リム様はルンナよりも20も年上ですよ」
「だから私達が応援してあげるんじゃない。リムは年齢のことを気にしているハズだもの」
「うーむ」
「何で悩むの?」
「リム様はオレの元上司でこのような姿を見るのは……」
「ナイン、人生は楽しんだ者勝ちよ?リムも言ってたでしょ?人はいつか死ぬものだって」
「それはそうですが……まあ、分かりました」
マリーンの説得により、ナインも2人がうまくいくように密かに協力するということになったのだった。
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