マリーン姫の護衛騎士ナイン
娘からのおねだりもあり、王は騎士見習いのナインを護衛の1人になることを許した。
「ナイン、今日から宜しくね!」
「ご希望に添うように懸命に尽くします」
「もう、そういう固いのはナシ!ナインには私の遊び相手になってほしいの!」
「そう言われましても……」
ナインは真面目な性格だった。護衛の1人としてつくのにあたり身元調査を行ったのだが、彼は元々孤児で8歳の時にラペル伯爵家の当主シラップに引き取られていた。
天涯孤独であったナインはラペル伯爵にとても恩義を感じていて、恩返しをすべく剣の稽古や勉学にも力を入れていた。努力は認められ、騎士としての入隊を早くに許されたのだった。
ラペル伯爵も本当の息子として可愛がっていたので、ナインがマリーンの護衛となると非常に喜んだ。
ナインはラペル伯爵の恩に報いるためにも護衛として選抜されたからには、早々に立派な騎士として認められたかったのだが、マリーンが望んだのは“兄”のように接してもらうことだった。
ナインは最初、納得できないでいたが、まわりから諭されてマリーンの求めるような“兄”として接するようにした。ナインには兄弟姉妹がいなかったが、孤児院で多くの年下の子どもの面倒を見ていたから兄のように振る舞うことは苦ではなかった。
「私の呼び方は“マリーン姫”なんて固い呼び方はイヤよ。ナイン、何か思いつかない?」
マジメなナインはうーんと悩んだあげく、答えた。
「では、“姫様”では?」
「......あんまり変わらないけど、ナインが考えてくれたならそれでいいわ」
ということで、マリーンの呼び方は“姫様”となった。ナインは敬意をはらいつつ、兄としてマリーンを見守ってくれる。
......ナインが護衛騎士として付いて半年が過ぎた頃、2人は王宮の庭にいた。
「姫様!どうしてそのようなところにいるのですか!」
“ナイン、目をつぶっていて10数えてね!”と言われて10数えて目を開けたら、マリーンはナゼか木の上にいた。しかもかなり高い所まで登っている。マリーンは怖くて降りられなくなっていた。
ナインが護衛として慣れてきたこともあり、まわりの侍女もなかばナインに面倒を任せてしまっていて気付くのが遅れてしまったのだ。
「マリーン様!危ないですわ!」
後から叫んでも後の祭りである。
あいにく、ほかのベテラン騎士は調練に参加しており、今マリーンの側にいる騎士はナインしかいない。ナインは万が一、落下した時のことを考えて地面にクッションになる布などを侍女に用意するように頼むと、自分も木に登るために鎧を脱いだ。
「姫様!絶対に手を離してはなりませんよ!オレが今、そちらに行きますから!もう少し頑張ってください!」
怖くて声が出せないマリーンはコクコクとうなずく。
ナインがもう少しでマリーンのいる枝に辿りつくという時に、マリーンは自分の手にはいずり回っている虫に気付いて叫び声を上げた。手は木から離れている。
「きゃー!」
「姫様!!」
ナインは落下してきたマリーンをどうにか抱き留めると、ケガをさせないように固く抱きしめる。だが、落下は防げずそのまま、2人して地上まで落下した。
侍女達がかき集めて来た布の上に落ちたせいもあり、2人とも無事で済んだ。マリーンはホッとして、ナインに話しかけようとしたところで、ナインが怖い顔をしているのに気付いた。
ナインはマリーンを腕から放すと、初めてマリーンに厳しい声で叱った。
「あなたは何を考えているのです!」
ナインが大好きなマリーンはナインの剣幕に“ごめんなさい”と、ボロボロと泣いた。ナインは泣いている姿を見て一瞬ひるんだが、命が危なかったことをこんこんとマリーンに言い聞かせる。
まわりの者はナインに言い過ぎだとか、何様だ、などと言っていたが、マリーンは自分が悪かったのは重々承知していたので、“ナインを責めないで”と、ナインをかばった。
その出来事があってから、マリーンは以前にも増してナインに引っ付いて回るようになったのだった。
ナインは、マリーンの初恋の人となっていた。
恋人にお菓子を贈る日にはマリーンはナインにクッキーを贈ったし、幼いなりにアプローチはしていた。ナインは一向にマリーンの気持ちに気付いていないようだったが。
だが、ある日、マリーンはナインが自分の姉であるジュエルを見つめていることが多い、と気付いてモヤモヤとした。
ジュエルは13歳でナインが15歳だったから歳が近いのもあり、マリーンとナインが一緒にいるとジュエルが話に加わる機会も多い。
最初は、自分が好きな姉と大好きなナインがいて嬉しいと思っていたマリーンだが、段々とナインがジュエルに気を取られることが多くなると、面白くなかった。
大好きな姉を排除することは無かったが、自分ではない違う人に目を向けるナインにマリーンは傷つく。
ナインがジュエルを見ているということが心理的なストレスになったのかは分からないが、マリーンは咳の発作が出るようになり、ベッドで寝起きする生活が増えていった。ナインとはたまに調子が良い時に庭を散歩するくらいだ。
「木登りして怒られたのが懐かしいなあ」
「また、元気になって木登りできるようになりますよ。降りられなくなるのは困りますが」
頭を撫でながらナインに言われると体調が良くなるような気がしたが、そうはならず、9歳を迎える頃にマリーンに発作が度々出るようになると、父王の命令で静養地へ送られることになってしまった。
ナインは宮廷に残ることになり、マリーンは泣く泣くお別れしたのだった。
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