消えたい夜に
海星
第1話
「……」
「お疲れ。」
駅の歩道橋の上でキラキラ光る街を見ていた。
すると、LINEを一本、たった一言『おつかれ』と送っただけなのにその人は現れて隣にきてくれた。
暫くぼーっとした後に
「…
と僕が声をかけると、
「一緒にお風呂でも入る?」
と彼女の家の方向に僕の手を引いて歩き始めた。
─────────彼女の自宅マンション。
「お風呂溜めてくるから好きにしてて。」
「…ありがとう。…手洗っていい?」
「どうぞー」
肩より少し長い暗い茶色のサラサラの髪。
元バーのお姉さんで今は化粧品関係の会社で働いてる。
セクシャルで言えばバイ。
そして…そういう行為が凄く苦手。相手が誰であれ。
そして僕もまた特殊。
──────「お腹減ってない?」「減った。」
「後でなんか作ってよ。」
「いいよ。有咲なにたべたい?」
「パスタ食べたいかも。この間ソース買ってきたんだー。…ほら、これ。」
「へー。美味そうじゃん。」
「あんたも食べる?」
「んーいや、俺片栗粉と牛乳少しいただければカルボナーラにして食べれる。」
「そんなよくわかんない事しなくてもソースあるよ、ここに。」
…彼女は僕の数少ない友人の一人。
でも本当はちょっと特別だったりする。
家の中がすごく綺麗で整理整頓も完璧。
『結婚』を意識したこともあるが僕らには何かしっくりこない気がしていて話さないまま友人として数年が経っていた。
でもお互いの誕生日にはプレゼントを用意して泊まりにも行っていた。
行為は無いがそれがまた安心できて、楽しかった。最後、僕が眠くなると彼女の胸の中で眠りにつく。でも。夜中に目が開くと次は僕が彼女を包み込んでまた眠りにつく…。
そんな関係だったが、
この日は僕が行動を起こした。
スーツを脱いで家着で出てきた彼女に前触れもなくキスした。
正直、殴られて追い返されると思った。
でもなにか変えたくて。
すると彼女は構えてた事とは真逆の行動をした。
そして僕に言った。
「毎日、ここで待ち合わせしようよ。ここで待ち合わせして、ここからお互いの仕事に行こうよ。」と。
驚いたものの、どこまで本気か分からなくて少し下品なことを聞いた。
「出来たらどうする?風呂だって一緒に入ってんだからそのうち俺が中に出すかもしれない。」
「…口だけでしょ?そういう『未来』はありかもしれない。でも『現実』は全てあなたの思い通りになんて行かない。だからあなたはさっきあの場所で下を見てたわけだし。」
彼女は分かっていた。
全て分かっていた。
「…やっぱいい。帰る。ごめん。ゆっくりしたいのに。」
「何も変わらないよ。」
彼女の言葉は重くて強かった。
「お前に何がわかる」
「…全部は分からない。分かってあげられない。でもあたしなら、受け止めてあげられる。」
「お前が良くてもお前の幸せを望む人たちもいる」
「…言わなかった?あたし、天涯孤独なの。施設育ちだし、親の顔も知らない。だから作ったところで育てる自信もなければよ喜ぶ人もいない。それにあたしは子供を産むためのロボットでもない。」
「……。」
「……。」
僕は有咲を強引に引き寄せて抱きしめていた。
「やりたいのにできない。役に立てない。」
「聞いてた?あたしの話。」
「聞いてた」
「…いいの。あたし達はあたし達で。」
─────────有咲は僕に優しく口付けてくれた。
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