第50話

俺たちは何とか開けた場所にたどり着き、短い休憩を取った。リリスの魔法による簡易結界が俺たちを守るが、完全に安心できる状況ではない。


「少し回復したけど、ここを抜けるにはまだまだ先が長そうね……」リリスが疲れた声で呟く。


「でも、このままじっとしていても解決しない。少しずつでも進もう」とノエルが矢筒を確認しながら答える。


「ああ、進むしかないな。全員、警戒を怠らないように」


 それからは何度も戦闘と休息を繰り返した、俺たちは進むたびに疲労を重ねていた。それでも、引き返す選択肢はなかった。


 森の中心部に近づくにつれて、空気が重くなり、周囲の木々はまるで意思を持っているかのように俺たちを押し返そうとしているようだった。


 だが俺は前を見据えた。先には森の中心と思しき巨大な空間が見えている。俺たちが目指すべき場所、その先に何が待っているかはわからない。


 進むたびに足元から根が伸びてきたり、地面が突然崩れたりと、森そのものが俺たちを拒む動きを見せてきた。それでも、リリスが魔法で罠を無力化し、ノエルが素早く射抜くことでなんとか突破してきた。


「もうすぐよ……あの先に、たどり着ければ……」


 だが、その言葉の直後、足元が大きく揺れた。


「罠だ!全員気をつけろ!」


 俺が叫ぶと同時に、地面から無数の根が一斉に伸び上がり、俺たちを囲むように蠢き始めた。


「これ、今までよりも強力な……!」


 リリスが叫ぶが、根が彼女の足を絡め取る。


「離して!」


 ノエルが矢を放ち、リリスを捕らえた根を射抜く。しかし、その隙を突いて別の根が彼女の足元に迫る。


「ノエル、下がれ!」


 俺は根を振り下ろして根を断ち切るが、その再生速度が異常に速い。まるで意思を持っているかのように、俺たちの隙を見つけては絡みついてくる。


「くそっ、これじゃ埒が明かない!」俺は苛立ちながら叫ぶ。


「リリス、魔法で一気に焼き払え!」ノエルが矢を放ちながら声を張り上げる。


「分かったわ!でも、これで残りの魔力がほとんどなくなる……!」


 リリスが魔法陣を展開し、全身の力を振り絞って魔法を放った。


 轟音とともに炎が一面に広がり、根を焼き尽くした。その炎の勢いに押されるように、根は一時的に動きを止めた。


「今だ……行くぞ!」


 俺はリリスの手を引き、そこから脱出した。


 木々の間を抜けると、視界が一気に開けた。そこには、他とは明らかに違う空間が広がっていた。巨大な根が螺旋状に絡まり合い、その中央には異様な存在が待ち構えていた。


 木々の根や蔦が人型の姿を作り出し、無数の小さな花がその体に咲いている。全身から放たれる威圧感は、これまでに感じたことがないほどだった。


「……これが、この階層のボス……」


 リリスが震える声で呟いた。


 その存在アークドライアドはゆっくりと目を開け、冷たい光を宿した瞳で俺たちを見下ろした。


「来たか……愚かな挑戦者どもよ」低く響く声が、空間全体に満ちる。


 ドライアドは片腕をゆっくりと上げると、その動きに呼応するように地面から再び根が伸び始めた。そして、その根が絡み合いながら巨大な槍を作り出し、俺たちに向けて構えた。


「試練を乗り越えた者よ……だが、ここがお前たちの終着点だ」


 後ろを見ると木の根で出口が塞がっていた、俺は仲間たちを振り返る。


「もう戻れない、全員準備はいいか? ここを突破しない限り、先には進めない!」


 リリスが頷きながら杖を構え、ノエルも最後の矢を握りしめて答えた。


「やるしかないわね!」


 アーク・ドライアドは低く唸るような音を立て、全身から無数の根を放つ。それが空中で螺旋を描きながら、槍のように俺たちに向かって飛んできた。


「避けろ!」俺が叫ぶと同時に、全員が飛び散るように動いた。だが、根はしつこく追尾してくる。


「これ、動きを止めないと……!」リリスが魔法を放つが、根が炎をものともせず突き進んでくる。


「この根再生力が以上よ!」


 ノエルが歯を食いしばりながら矢を放つが、それも意味がない。


「ならば、近づいて直接叩くしかない!」俺は叫び、全力でドライアドに向かって駆け出した。


 俺たちは走り出したが、その瞬間、地面が大きく揺れた。木の根が生き物のように地面を突き破り、俺たちを分断するかのように立ちはだかる。


「ノエル、右に回れ! リリスは後方から援護だ!」俺は叫びながら剣を振り下ろし、迫り来る根を斬り裂いた。しかし、斬っても斬っても次々と新しい根が現れる。


「無限に湧いてくるじゃないの!どうすればいいのよ!」ノエルが矢を放ちながら叫ぶ。彼女の矢は的確に根を射抜き動きを止めているが、その数に追いつけていない。


「根を断つのは時間稼ぎにしかならない……弱点を探さないと!」


 リリスが魔法陣を展開し放つと、一部の根が燃え上がった。しかし、ドライアド本体は微動だにしない。


「まだ様子見だ……本気を出してくるのはこれからだぞ」俺は剣を構え直し、ドライアドの動きを見据えた。


 ドライアドがゆっくりと腕を振り上げると、その動きに合わせて根が絡み合い、巨大な槍を形作った。それを振り下ろす動きは遅いが、威力は圧倒的だ。


「避けろ!」


 俺の声に反応し、全員が散開する。槍が地面に突き刺さると、轟音とともに衝撃波が広がり、周囲の木々を揺るがした。


「こいつ、直接攻撃もしてくるのかよ……!」


 俺は息を整えながら、再びドライアドに向かって走る。


 その時、ドライアドの胸部にある輝くルーンがわずかに光った。俺は咄嗟に感じ取る。


「あれが……弱点かもしれない!」


「リリス、あの胸のルーンを狙え!ノエル、援護してくれ!」


「わかったわ!」リリスが火の魔法を再び放つが、ドライアドの腕が魔法を遮り、その威力を無効化する。


「魔法を通さない!?そんなのアリ!?」リリスが歯ぎしりしながら魔力を込め直す。


「物理で攻めるしかない!」俺は剣を握り直し、全力で距離を詰めた。しかし、ドライアドの腕が動き、根が防壁のように俺の進路を塞いでくる。


「簡単には行かせないってことか……なら、力づくで突破する!」


 ノエル、矢を使って根を引き剥がしてくれ!リリス、俺が隙を作る!」


「了解!」ノエルが矢を次々と放ち、ドライアドの防御を崩す。だが、そのたびに新しい根が湧き出てくる。


「これじゃ追いつかないわ……!ゼラン、次はあんたが隙を作りなさい!」ノエルが叫ぶ。


 俺は根を斬り裂きながら突き進み、ドライアドの胸部を目指した。しかし、突然足元から根が伸び、俺の動きを封じる。


「くそっ、動けない!」


「待って、今助けるわ!」リリスが魔法を放ち、俺を捕らえた根を焼き払った。その隙に俺は剣を振り上げ、ドライアドの胸に迫った。


「リリス、次の魔法で弱点を狙え!ノエル、援護を頼む!」俺が叫ぶ。


「これで決めるわ!」


 光の槍がボスの胸部に突き刺さり、ついにその体勢が崩れた。その隙を見逃さず、俺は跳び上がる。


「これで終わりだ!」


 俺の刃が輝くルーンの中心に突き刺さり、アーク・ドライアドが大きく呻いた。


「やった……?」


 ノエルが矢を構えたまま警戒する。


 巨体がゆっくりと崩れ落ちる。やがて完全に動きを止め、森全体が静寂に包まれた。


「思ったより、あっさりだったわね……」


 リリスが息を吐きながら杖を下ろす。


「いや、まだ気を抜くな。何かが」


 俺が言葉を続ける前に、ボスの体から緑色の光が溢れ出した。その光は空間全体に広がり、森中の魔力を刺激するように感じられる。


「なにこれ……魔物たちが……!」


 リリスが驚きの声を上げた。


 遠くから響く蹄音や足音、動く根や蔦のざわめき――それはまるで森全体が動き出したかのようだった。


「くそっ、どういうことだ!」


 ボスの死骸が最後の力を振り絞るように、深く低い声を響かせた。


「……貴様らに、この森の全てを贈ろう……」


 その言葉とともに、森中の魔物が一斉に集まり始めた。フェイングリムの群れ、スラッシュヴィン、さらには見たことのない巨大な昆虫型の魔物――全てがこちらを目指している。


「全てを呼び出した……?」


 ノエルが矢を構えながら呟く。


「冗談じゃないわよ……こんなの無理!」リリスが青ざめた顔で後退する。


「くそ、ここで全滅なんて冗談じゃない!」俺は仲間たちの前に立ち、刃を構え直した。


 魔物たちの波が押し寄せる。リリスは魔法で必死に応戦し、ノエルは矢を放ち続けるが、数が圧倒的だった。


「ゼラン、どうするの!?このままじゃ……!」リリスが叫ぶ。


「戦い続けるしかない!ここを突破しない限り……!」


 俺は刃を振り、次々と迫る敵を斬り伏せる。しかし、魔物たちは次々と湧いてくる。疲労は限界に近づき、息をするたびに体が重くなり、傷が増えていく。



「もう無理よ……これ以上は……!」リリスが膝をつきかける。


 ノエルが叫ぶ。「ゼラン、リリスを守って!私が囮になるから!」


「ふざけるな、ノエル!お前を犠牲にするわけにはいかない!」俺は叫ぶが、彼女は弓を構えたまま笑う。


「私たちが全員生き残るには、誰かが道を作るしかないでしょ?」


 その時、リリスが立ち上がり、必死に魔法陣を展開した。「光の結界を張るわ!これで少しの間は耐えられる!」


 リリスの結界が一瞬の安全を作り出し、その隙に俺たちはその場を離れる決断をした。


 森の出口に向かって全力で駆け抜ける俺たち。後ろから迫る魔物の群れの足音が聞こえるが、振り返る余裕はない。仲間たちと力を合わせ、なんとか森の危機から脱出することができた。


「やっと……抜けた……」ノエルが崩れ落ちるように座り込む。


 リリスも息を切らしながら言った。「ええ……今回もギリギリ生き残りました……」


 俺は地面に座り深く息をついた。あの森を抜けたことで得たのは、ただの一時的な安息でしかない。また次の階層が待っている。




________________________


現在のステータス


ルミナティス(Lv50 / 320, Aランク)

• HP:85,000

• MP:32,000

• 攻撃力:42,000

• 防御力:30,000

• 素早さ: 38,000

• スタミナ:28,500

• 知性:22,000


• 「ルクスインフェルノスラッシュ Lv1 → Lv2」(威力&持続時間UP)



• 「斬撃 Lv8 → Lv10」(最大レベル到達)斬撃→覇斬(はざん)に進化

高速の斬撃を放ち、通常の斬撃よりも鋭く深く切り裂く。剣圧がわずかに前方へ伸び、攻撃範囲が広がる。

スキルLvアップで斬撃の速度・威力・範囲が強化。


• 「風魔法 Lv8 → Lv9」(風魔法の威力&精度向上)

• 「光魔法 Lv1 → Lv2」(遠距離戦が可能に)

• 「ルミナススピード Lv6 → Lv8」(機動力UP、回避能力向上)

• 「マナシールド Lv5 → Lv6」(防御力UP、耐久性能強化)

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