第47話

四階層の入口付近、安全と確認していた空間に戻ると、リリスが魔法で結界を張る。その中でようやく体を休めることができた。


「ふぅ……何とかここまで来れたか」


 壁に背を預け、深く息を吐く。リリスも杖を手放し、結界の中で座り込んだ。ノエルも矢筒を横に置き、疲れたように目を閉じる。


「ここまで追い詰められるなんてね……」


 ノエルがぼそりと呟く。冗談めいた口調だが、その顔には明らかに疲労が浮かんでいる。


「今のままじゃ、どう頑張っても勝てない」


 俺は刃を見つめ、深く息を吐いた。戦う力も、武器も、すべてが不足している。


「休むだけじゃなく、レベルを上げる必要があるな。それと……装備も強化しないと」


 俺の言葉に、リリスがふと辺りを見回した。


「待って……何か、変よ」


「何がだ、?」


 リリスは立ち上がり、周囲を見渡す。そして結界の端に近づくと、何かを感じ取ったようだ。


「この場所、魔力の流れが奇妙なの」


 リリスの言葉に、俺たちは立ち上がり、慎重に周囲を確認する。すると、結界の隅に崩れかけた石碑が見えた。


「これ……石碑か?」


 近づいてみると、その石碑には古い文字が刻まれていた。


『――この地に眠るは、選別に敗れし者たち。遺志は次なる挑戦者へと受け継がれん――』


「選別に……敗れし者?」


 ノエルが石碑を見つめ、手を伸ばす。その瞬間、石碑の根元から淡い光が漏れた。


「……これは!」


 瓦礫をどけると、そこには光を放つ装備が隠されていた。


 リリスが手に取ったのは、美しい光を放つローブだった。まるで風と光が織り交ぜられたようなその装備は、彼女の手に馴染むように吸い付いた。


「……これは、魔力を大幅に増幅してくれるみたい」


 ローブを纏ったリリスの周囲に、淡い光が集まる。その姿は神秘的で、彼女の魔力が以前よりも澄んでいるのを感じた。


 次にノエルが手にしたのは「風裂の長弓」風の力を宿した弓だ。矢を放つと、風を切る音と共に壁を深く穿つ。その威力は今までの弓とは桁違いだ。


「この弓……風の力が宿ってる。これなら硬くても貫けるわ」


 俺は彼女たちの装備を見て、確かな希望を感じた。


「それじゃあ地上に一度戻ろう」


四階層から地上への帰還を決断した。全員が疲労し、物資も残りわずか――このまま無策で挑めば、全滅するのは目に見えている。


リリスが小さく息を吐いた。


「……くやしいけれど、今の私たちでは勝てないわ」


「次に備える時間が必要ね」ノエルも頷きながら矢筒を背負い直した。


俺たちは迷宮の入口に向けて引き返し、やがて地上への道を抜ける。久しぶりに見る空は青く、陽の光が目に痛いほど輝いていた。


「……戻ってきたな」


四階層の暗闇から抜け出したことで、少しだけ安堵の気持ちが湧いてくる。だが、このままでは終われない。


街に戻ってすぐに鍛冶屋で自分達の装備整え、ポーションや食料も買っておいた。


「装備は整った。あとは力をつけるだけだ」


その日は宿屋に泊まり、翌朝再びダンジョンへ戻った。


 ボスに挑む前に、俺たちは再びダンジョンの中を進み、魔物たちと戦うことにした。


「確実に一体ずつ仕留めるぞ!」


 霧の中から現れた亡者の兵士たち。


「リリス、霧を払え!」


「任せて!」


 リリスが『精霊の光』を放ち、霧が晴れる。亡者の姿が露わになり、ノエルが矢を放つ。風を纏った矢は亡者の頭部を貫き、そのまま崩れ落ちた。


「今なら戦える!」


 俺は刃を構え、風刃を放つ。魔物の群れを一掃しながら、着実に力をつけていく。


 さらに奥に進むと、初めて見る巨大な亡者の戦士かつての冒険者が立ち塞がった。


「強敵だな……!」


 俺が刃を構え、大剣の一撃を受け止める。その重さに腕が痺れるが――


「今だ!」


 ノエルが矢を放ち、動きを止める。その隙にリリスが光の槍を放ち、亡者の鎧を砕く。


「……やった」


 それから二ヶ月ほど何度も四階層の魔物を倒し、俺たちは以前とは比べ物にならないほど強くなっていた。


 装備を強化し、レベルを上げ、力をつけた俺たちは再びボス部屋の前に立つ。あの巨大な扉が静かに冷たい威圧感を放っているが、今の俺たちはもう怯えない。


「準備はいいか?」


 俺の問いかけに、リリスとノエルが力強く頷く。


「ええ、今度こそ勝つわ」


「やるしかないわね」


 俺は刃を手に取り、深く息を吸った。そして――


「行くぞ!今度は絶対に負けない!」


 巨大な扉が軋む音を立てて開き、冷たい風が俺たちを迎え入れる。その先に待つのは、四階層最後の試練――だが、俺たちはその先へ進む覚悟を固めていた。

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