第39話

俺の進化も無事に終わり、俺たちは二階層へ向けて静かに歩き出した。


 ――しばらく進むと、洞窟の薄暗い通路の先にシャドウリザードの群れが見えた。


「十匹ぐらいか…。まだ気づかれてないな。魔法で奇襲を仕掛けて数を減らすか」


 ゼランは進化で得た力を試すべく、リリスとノエルに指示を出した。


「リリス、ノエル、ここは俺に任せてくれ。周りの見張りを頼む」


 リリスが少し心配そうに頷く。


「うん、わかった。でも、無理しないでね?」


 ノエルも真剣な表情で答える。


「そうよ、もし危なくなったらすぐに援護するから」


 二人に安心させるように軽く笑ってみせ、シャドウリザードの群れに向かって静かに構えた。


 まずはシャドウリザードに向け、無数の風刃を放った。


 風刃が当たったシャドウリザードは、柔らかくなったのかと思うほど簡単に両断されていく。


 半分倒せればいいと思ってたけど九匹倒してしまった。残りの一匹もほぼ瀕死だ。


 とどめを刺すべく、新スキル【ルクスインフェルノスラッシュ】を発動し、全力で振り下ろした。


 剣が直撃した瞬間、轟音と共に激しい衝撃波が周囲を襲う。シャドウリザードは刃に触れたその刹那、肉片となり四方に飛び散った。直線上には焦げた大地だけが残り、そこにかつて魔物がいた痕跡は微塵も見当たらない。


 結果は、言うまでもなくオーバーキルだ。これでは素材回収どころの話ではない。


 普段使いには向いていないが、強敵相手には切り札として使うことができそうだ。


 リリスとノエルの方を見ると口を広げ驚いた顔をしていた。


「ゼラン何今の!?あれが新しいスキル?」


「……凄い威力だった、見たことないスキルだけどなんて名前なの?」


「そうだ、これが新しく覚えた。ルクスインフェルノスラッシュだ。なんかスキルが合成されてできたスキルらしい、普通あるのかそんなこと?」


 俺は疑問に思い二人に質問した。


「あるにはあるけど、何故スキルが合成されるのかは解明されてないから詳しくはわからないわ」


「リリスでもわからないか……」


「私は仮説は知ってる、スキルレベルが一定以上がると合成されるとか、スキルの数が多くなった時、レベルが上がった時なんて言われているわ。でもゼランの場合は進化したからじゃないかな?」


「確かにそうかもな、進化したからが一番近そうだ。ノエルありがとう」


 疑問も晴れ俺達は二階層に向け再び歩き始めた。


 しかし、進んでも代わり映えのない景色で進んでいるのかいまいち分からない、入口の迷宮と呼ばれるだけはある。


 道中の敵は特に問題はないが、代わり映えのない景色を見て歩くのも予想以上に疲れる。


 ん?あれは……


「リリス、ノエルあそにあるのは宝箱か?」


「いいえあれはミミックですね、今は消耗したくないのでスルーしましょう」


「ミミックは倒しても意味ないからスルー」


「宝箱じゃなくて、ミミックか残念だ……」


 少し姿が見てみたい気もするが無駄な消耗は辞めておこう。




 それからさらに進んで行くと装飾された大きな扉があった、いかにもボス部屋と言った感じだ。


「ゼラン、ここがボス部屋だよ。ボスを倒さないと次の階層には行けないから避けることはできないわ」


「どんなボスがいるんだ?」


「確かクリスタルゴーレムだったはず、手足と胸のコアを破壊すると倒せるよ、でも魔法も使ってくるから気をつけて」


 なるほど弱点が分かりやすいのは助かる。


「わかった、じゃあ俺が前線でコアを破壊する。リリスは後ろから魔法で援護、ノエルは弓で援護しつつ、隙をついてコアを破壊してくれ」


「うん」


「わかった」


 重い扉を開け中へ入ると、何もしてないのに扉が勝手に閉まった。一度入ると倒すまで出れない仕掛けになってるらしい。


 待ち構えてたクリスタルゴーレムが動き出した、一件ノロマなパワータイプに見えるが土魔法なども使ってくるとリリスからきいている。


 「コアは胸と手足にあるな」


 動き出したクリスタルゴーレムは、重厚な体躯からは想像できない速さで一歩を踏み出した。その衝撃で床が揺れ、粉塵が舞い上がる。


「注意しろ!意外と素早いぞ!」


 俺は即座に二人に警告を飛ばしつつ、ゴーレムの動きを見極める。


 ゴーレムの拳が重力を伴ったような鈍い音を響かせながら地面に叩きつけられる。


 その一撃だけで床の一部が砕け、巨大なクレーターができた。


 動きはやはり俺達の方が速いが、当たれば防御力の低いリリスやノエルは即死するかもしれない威力だ。


 すると今度は鋭い岩が弾幕のようにリリスに飛んできた。


 どうやら素早い俺やノエルではなく一番足の遅いリリスを狙ってるようだ。


 「リリス大丈夫……だな」


 リリスは防壁を魔法で作り難なく防いでいた。


 俺はその間に猛スピードで接近し普通の斬撃で右足のコアを破壊した。


 それに気づき俺めがけて腕を振り下ろすが、それも避け今度は左足のコアを破壊した。


 俺に気を取られてるうちにノエルが背後から左手のコアを短剣で破壊し、リリスがクリスタルゴーレムの体を魔法で拘束した。


 俺は胸のコアを斬撃で破壊し、ノエルも右手のコアを破壊した。


 全てのコアを破壊されたクリスタルゴーレムは崩れ落ち、ボス部屋中央に宝箱が出現した。


 「リリス、ノエルやったな!」


 「私達いい連携だったね!」


 「私もそう思う」


 俺達の連携はパーティーを組んで、まだ日は浅いがかなりよくなっている。


 「なあこの宝箱は開けていいんだよな?」


 「ボス部屋の宝箱にはミミックいないよ」


 俺はワクワクしながら宝箱を開けた。


 中に入っていたのは指輪だった。


 「これどんな効果があるかわかるか?」


 「それは力を少し上げてくれる指輪だね、ゼランが持ってた方がいいよ」


 「そうだね、私もゼランが持ってた方がいいと思う」


 「そうか、なら俺が貰うよ」


 宝箱の中身の確認も終わり、俺達は二階層に進む前に休憩と情報を確認することにした。

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