第11話 選択を迫られる孤児院の子どもたち。
「孤児院の皆が取れる選択肢は二つ。一つは明日、サウザーラ領主の屋敷に行くこと。もう一つはあたしが作る、新しい孤児院で暮らすこと」
アニタさんの言葉に、食堂内から新しい孤児院で暮らしたいという声が上がる。
私は、ここに残るのならお母さんが神官をやめなきゃいけないので、まだどうすればいいのか決められずにいる。
「申し訳ないけど、孤児院の全員の面倒は見られないよ。赤ちゃんたちとおむつや離乳食が必要な子たちはサウザーラ領主の屋敷に行ってもらう」
アニタさんの厳しい表情と言葉に、食堂内が静まり返った。放逐されるのは、今、大部屋でナターシャとミミが面倒を見ている子たちだ。
「アニタお母さん。そんなの可哀想よ。皆で一緒に、これまで通りに暮らせないの?」
優しいニアが、涙ながらに訴える。アニタさんは首を横に振り、厳しい顔でニアを見つめた。
「ニア。あたしたちはこれまで通りには暮らせない。あたしは、あんたたちを食わせるために冒険者に戻るつもりだ。赤ちゃんや小さい子の面倒を看てやれないし、昼ご飯だって作ってやれないと思う。掃除だって、あんたたちに任せきりになるかもしれない」
「だったら、俺たちが赤ちゃんとか小さい子の面倒を看ればいいだろ? そうだよな?」
ロッドが必死な顔で言う。でも、アニタさんは折れない。
「ロッド。赤ちゃんのミルクはどうする? もう、信徒から母乳を分けてもらうことはできないし、司祭さまが聖水を与えてくれることもない」
「それは……っ」
「領主の屋敷なら、あのいけすかない領主の息子が聖水をくれるだろうさ。引き取っておいて放置して死なせはしないはずだ」
アニタさんの話を聞いて、ロッドも私も他の皆も黙り込んだ。食べる物が用意できないなら、赤ちゃんや子どもたちを領主の屋敷に行かせるしかない。
「あたしの孤児院では、食事を三回出してやれるかわからない。自分たちのことは、今まで以上に自分たちで面倒みなけりゃいけなくなる。それに、12歳にならない子は、あたしと暮らすなら、あたしの養子にならなくちゃダメだ。12歳になっている子は全員、冒険者ギルドに登録して、冒険者ギルドのサウザーラ支部に拠点登録してもらう。その条件が呑めないなら、明日、領主の屋敷に行ってもらうよ」
「それってアニタお母さんが本当のお母さんになってくれるってこと?」
雪の日に孤児院の前に置き去りにされたルーベルが、期待に目を輝かせてアニタさんを見た。ルーベルは孤児院に来たグレイシス王国歴976年金の月の3日を、5歳の誕生日ということにしたから、今は10歳。アニタさんの養子になれる。
「本当の母親じゃなくて、養母だね。冒険者登録をして、サウザーラ支部に拠点登録したあたしはサウザーラ領の領民ってことになるから、養子になった子たちもサウザーラ領の領民になる」
アニタさんがそう言うと、12歳未満の子たちは歓声をあげた。皆、アニタさんがお母さんになってくれたとはしゃいで、嬉しそうだ。
そんな中、ニアが不安そうな顔をして口を開く。
「アニタお母さんの子どもになったら、12歳になっても冒険者にならなくてもいいの……?」
「孤児院にいるなら、12歳になったら冒険者登録をしてもらうよ。働き手は一人でも多い方がいいからね。冒険者になるのが嫌なら、明日、領主の屋敷に行ってくれ。基本的には養子縁組は12歳になるまでだ。それ以降は自立してもらうよ」
アニタさんの厳しい言葉に、浮かれていた子たちが一気に落ち込む。アニタさんはずっと、養母になるつもりがないと知ったら悲しい気持ちになるだろう。
おとなしくて優しいニアは、口を引き結んで考え込んでいる。
「アリスとサーシャはよく話し合って、先のことを決めるといい。じゃあ、あたしはちょっと出かけて来るよ」
「アニタさん、どこに行くの?」
私は尋ねると、アニタさんは悪い顔をしてにっと笑った。
「司祭さまの部屋さ。金になるものを見繕って、今後の資金にさせてもらう」
アニタさん。それは司祭さまの物を盗むっていうこと……?
アニタさんはまだ神官なのに、人の物を盗んではいけないという女神さまの教えを破るみたいだ。
***
登場人物紹介(十一話の時点)
・ルーベル:雪の日に孤児院の前に置き去りにされた少年。孤児院に来たグレイシス王国歴976年金の月の3日を、5歳の誕生日ということにしたから、今は10歳。
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