光火石 ①
元大賢者である爺ちゃんの趣味の魔道具製作で、前世にあった電球を再現させる為に僕と爺ちゃんは
「爺ちゃん今日は昨日の話にあった光火石っていうものを採りに行くって言ってたけど、光火石ってどんなものなの?」
「そうじゃった昨日は詳しく話しておらんかったの。『光火石』は別名光と火の石と言っての、この石には光を蓄える性質があるんじゃ。ケイトが昨日言っておった電池なる物の話を聞いて光火石と似ていると思っての」
「へ〜そんなすごい石があるなんて知らなかったよ。それがあれば爺ちゃんの魔法と合わせて使えば電球が使えるようになるかもしれないね!」
「光火石はこの辺にはないからのぉ。今日はこの島の中央にある鉱山に鉱石採集へ行こう!!」
僕が住むこの島は火山島であり島の中央には大きな山が聳え立っている。具体的な標高は分からないが、ぱっと見富士山と同じくらいの大きさがある。
僕の住むこの島『デッドアイランド』はかなりの大きさがあり、十年住んでいてもいまだに行った事がない場所が沢山あった。
「爺ちゃん! 島の中央にある山って名前とかあるの? 僕聞いた事ないんだけど」
「ん〜正式な名前は決まってないのぉ。島民は皆あの山を『恵みの山』だったり、『神秘の山』とか呼んでおる。沢山歩くことになるがケイトよ山登りは経験あるかの? なんじゃったら儂一人で行ってくるが…」
「山登りはした事ないけど、この十年で僕の体力は前世とは比べ物にならないくらい上がってるし、それにまだ一度も行った事ない場所だから僕も行ってみたいし」
「そうか、よし! それなら朝ごはんを済ませたら早速出発するぞー」
僕はこの離島に転生してからまだ一度も行ってない場所に行ける事に胸を踊らせた。この世界は前世にない物で溢れていたからだ。今日はどんな新しい物を見たり聞いたり出来るんだろうか!
早朝に行った貝採りで採った貝を出汁にとったスープを煮立てながら俺はそんな事を考えていた。
スープの準備は出来たし、後は…。
僕は爺ちゃんに頼んで建ててもらった冷凍庫を歩きながら朝食のメニューに悩んだ。
う〜寒っ。
この冷凍庫は爺ちゃんの冷却魔法が掛かっていて、ここは常にマイナスの温度で保たれ、大きさは12畳くらい、キッチンのすぐ横に建てられている。これのおかげで獲ってきた魚や頂いた肉などを長期間保存する事が出来ている。
早くこれ消費しちゃわないとな…そう思い手に取ったのは魔王いかの触手の一端。『魔王いか』は前世でいう所の大王いかに当たるいかの種類で大王いかをさらに大きくした感じである。
ある日僕の友達であるリヴァイアサンのリバが魔王いかの触手を口に咥えて持ってきたのが始まりで、触手だけの状態で50メートルはあるそれを見た時は自分の目を疑った。ほとんどはリバがその日のうちに平らげてしまったが、その一部を貰って料理してみた所これが驚くほどに美味であった。大きさの割に味が凝縮されていて、獲れたての魔王イカの刺身は口に入れると溶けてしまうほどクリーミーな味わいだった。今日は山登りで体力沢山使いそうだしこれを使って精の出る物でも作るか。
まずは魔王イカを必要な分切り取って、切り取ったイカを一口サイズにして、フライパンにニンニク、島唐辛子、庭園で栽培しているオリーブから抽出したオリーブオイルをたっぷり入れたら、弱火でそれらの香りを引き出す。オリーブオイルとニンニクのいい香りがしてきたら、魔王イカを沢山入れて中火で1分から2分食材を和えていく。塩で味を整えたら完成だ。本当は胡椒があればもっと良いのだがこの島にはどうやらないみたいだ。
じゃじゃ〜ん魔王イカをふんだんに使った『魔王イカのアヒージョ』の完成で〜す。
ここに爺ちゃんの店に来たお客さんと交換したパンを焦げ目が軽く付くくらい焼いてそれを添えたら豪華な朝食の出来上がりだ。
書斎で読書をしている爺ちゃんを呼びに行った。
「爺ちゃん朝ごはんができたよ〜」
「おおケイトか何やらもの凄い良い香りがして来て腹の虫が鳴っておったところじゃ。今日の朝食は何かの?」
「今日はアヒージョっていう料理を作ってみたんだけど。ニンニクとオリーブオイルを使ってるから元気が出るよ」
「アヒージョとはまた面妖な名前の料理じゃのー。ケイトが作ってくれる料理は全て美味で、味わった事のない物が多いからの〜。毎日作らせてしまって面目ないわい」
「いいんだよ爺ちゃん。僕料理するの前から好きだったし、ここで採れる食材は全部美味しいから作り甲斐があるんだよ。さぁ冷めない内に食べちゃお!」
僕と爺ちゃんはテーブルに向かい、朝食を堪能した。
「食ったの〜食ったの〜。魔王イカのアヒージョ誠に美味であった。毎日食べたいくらいじゃわい。」
「魔王イカはまだまだ残ってるし爺ちゃんが食べたいならいつでも作れるよ」
「そうかそうかそれはいい事を聞いたの〜。だが魔王イカを食べれておる事が儂は今でも信じられないんじゃがの〜。お主が魔王いかの足を家に運んで来た時は腰を抜かしたわい」
「魔王イカってそんなに珍しい食材なの?」
「そもそも食材って言っていいのかすら分からんからのぉ。あれは海の深海、それもかなりの深海にしか生息しておらん殆ど伝説的な生き物だからのぉ。それが普通に食べれてるって事がおかしい話じゃよ」
「そうなんだ…てっきりその辺に沢山いるのかと思ってたよ」
「あんな凶悪なモンスターがその辺に沢山おったらこの世界は滅んどるわい!」
そう言う爺ちゃん大笑いをしていた。リバが初めて魔王イカを獲って来て以来、僕が調理した魔王イカをあげたらそれを気に入ってしまったようで、定期的に魔王イカを獲ってくるようになっちゃったなんて言えない言えない…。
「それにお主に懐いているリヴァイアサンだってこの世界に3種しかおらん最強種の内の一種で人間に懐く事なんてあり得ない話なんだがの〜。どうやってあんなに懐かせたんじゃか」
「ん〜それが僕にもよくわかってないんだよね。砂浜を散歩してたら怪我をした状態のリバを見つけて看病とか食べ物を上げたりしてたらいつの間にか懐いててさ」
「子供とはいえ最強種を傷つける存在がいるとは何かよからぬ事がこの世界で起きているのかもしれないのぉ」
爺ちゃんは眉を
まぁ僕には爺ちゃんと違ってなんの力も無いし、何かあっても何もできはしないんだけどね〜。今日も庭で穫れたお茶が美味しいですな〜目を細めながらお爺さんみたいにお茶を啜った。
「さて、そろそろ光火石を採りに向かうかの〜」
「そうだねー今日の為に朝食のついでにお弁当も作って置いたから楽しみにしててね」
「儂の孫はなんて出来た子なんじゃ!これなら昼に食材調達をしなくて済むのぉ。ほれここに入れておくのじゃ」
爺ちゃんは持ってるポーチを指差し、僕はそこにお弁当と水筒を入れた。このポーチは爺ちゃんが持っている魔道具の内の一つで、ポーチには次元魔法がかけられていて中は見た目とは違い多くの物を入れる事ができる。僕もよく使わせて貰っているが入れても入れてもこのポーチが満杯になることはない。一体どれ程物を入れられるのか…。
「それじゃ出発するかの」
こうして僕と爺ちゃんは光火石を採りに島の中央へと向かった。
鉱山に向かっている道中爺ちゃんと僕は昔話に花を咲かせた。
「ねぇ爺ちゃんがこの島に来た時はこの島はどんな様子だったの?」
「そうじゃの〜儂がこの島に流されて来た時はここはまだ無人島でのぉ、儂を含めて数人で家を建てたり、畑を作ったり、川から水を引いたり随分と苦労したもんじゃよ。当時は『始まりの五雄』なんて呼ばれてての〜ちょっと恥ずかしかったわい」
そう語る爺ちゃんの表情は懐かしさに溢れていた。
「この島は罪人が送られる島だったんだよね? 爺ちゃんが罪を犯したとは思えないけど他の罪人達とよく協力が出来たね…『ここは俺のものだ』って感じで争いが生まれそうなのに」
「ケイトにはまだ話していなかったがの…」
爺ちゃんは深刻そうな顔付きになった。
「ここの島に流された者に罪人などおらず、本土にある王国の王族たちによって罪を被せられたり、王国の利益に反するなどで理不尽にここに送られて来た者が殆どなんじゃよ…」
「ひ…ひどい。そんなことが許されていいのか…」
「当時は国王が国を安定させるために不穏分子を徹底的に排除しようとしたんじゃよ。王族至上主義ってやつじゃ。でものぉ今では儂はこの島に来て良かったと思っておる。豊かな土地に、周りは海に囲まれていて食材には困らんし、島民は皆温厚で悪人など一人も居らず、それに儂には可愛い孫も居る。本土に居たら味わえなかった経験ばかりで毎日楽しいわい」
爺ちゃんは深刻そうな顔から次第に笑顔に変わっていった。
「爺ちゃんがそれでいいなら僕は何も言うつもりはないよ。最初爺ちゃんから罪人が流された島って聞いていたからどんな怖い人達が住んでいるのかと少し怖かったけど、島の人達はみんな良い人だしおかしいなって思ってたんだよね〜。今じゃ島民も五百人はいるから数人から始まって随分この島も発展したんだね〜」
「当時は月に一度のペースで島流しにされた者が流れ着いて来ていたからの〜。一気に人が流れて着いて来て家の数が足りないなんて事もあったわい。だが皆寿命で死んでいったり、病気に罹ったりして何度最後を見送ったものか…。今では儂が賢者であった事を知る者は指を数える程しか居らんくなったわい。時が経つのは早いの〜」
「爺ちゃんはこの島の歴史を知る数少ない人物って事だね! そんな人が僕の爺ちゃんなんてなんだか誇らしいよ」
「ほっほっほっ。そうかいそうかい! 儂もケイトの様な可愛い孫を持てて嬉しいわい。島の歴史を知っていると言ったら今日これから向かう場所に『始まりの五雄』の内の一人が拠点にしている所があるんじゃが、折角だから久しぶりに会いにいくかの〜」
「『始まりの五雄』……。僕そんな凄い人に会って当時の話とか聞いてみたいよ! 光火石も楽しみだったけど更に楽しみが増えたよ」
「まぁ奴は気難しい性格だからのぉ…。ケイトが期待している通りになるかは分からんがのぉ」
僕と爺ちゃんとの光火石採集は更に目的を増やし、進んでいく。
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