学院兵団を追い出されて~七不思議調査~

風使いオリリン@風折リンゼ

#1 七不思議調査~前編~

 真夜中。学院の旧校舎。


 月明かりと松明の炎が届く範囲を除き、本当に真っ暗なその場所で、私たちパーティーは立ちすくんでいた。


 明らかにこの世のものではない者の姿が、私たちの視線の先にあるのだ。


 私は意地になってここに来てしまったことを後悔しつつ、こんなことになったきっかけを思い返す。


 それは今日の昼休み。仲間と昼食をとっていた時のことだった。


「みんにゃはこの学院の七不思議は知ってるかにゃ」


「知らん。じゃあ、この話は終わりにしよう」


「ちょっと待つにゃ。せっかくさっき廊下で気になる話を聞いたんだから」


 話題を打ち切ろうとする私――ネージュ・アクシズ――に言い出しっぺのケモミミ少女――ト・ネル・ヴァイ――が食い下がってきた。


「七不思議……どんな話?」


 一緒に食事していたもう一人の仲間――フー・デトニクス――が興味を持ってしまったようで、ネルにそう尋ねる。


 ネルは満足げな笑みを浮かべた後、声を潜めて話だした。


「どの学校にも、校内で起こると言われている七つの怪異の噂――七不思議――っていうのがあるものにゃんだけど、そういうのがこの学院にもあるらしいのにゃ。まず一つ目が……」


 七不思議ね……。


 そんなもの、ある訳がない。


 あったとしても、その正体は魔物か何かだろう。


 この世界のおかしなことは全て魔物のせいなのだ。そうに決まっている。


「――という話にゃ……というか、なんでネージュちゃんは耳を塞いで……」


 そこまで言って、ネルは意地悪げな笑みを浮かべた。


「にゃにゃ。ひょっとして、ネージュちゃん」


 そして、間をたっぷりと取った後。


「怖いのかにゃ?」


「は? 別に怖くないけど?」


 私は声を裏返しながら、ネルに言葉を返した。


「いや、でもガッチリ耳を塞いでるじゃにゃいか」


「これは別に耳を塞いでる訳じゃないから。最近、色々あって疲れたせいで頭痛がするから抑えてただけだし」


「……あ、リーダーの後ろに髪の長い女の人が」


 ネルの言葉に、私は反射的に机の下に潜りこむ。


「……やっぱり、怖がってるじゃにゃいか」


「いやいや、今のは急に避難訓練がしたくなっただけだから」


「急に避難訓練がしたくにゃるって、どういうことにゃ」


 その私たちの応酬を見守っていたフーが頬を緩めている。


 このままだと、お化けが苦手なキャラが定着してしまいそうだ。


 それは自分のイメージ的にちょっと遠慮したい。


「……いいよ。そこまでいうなら怖がってないことを証明してあげるよ。今夜、私たちで七不思議の謎を解いてやろうじゃないか」


「そこは、私が、じゃにゃいんだ」


 そんなネルのツッコミはこの際無視した。


「あ、でも、無理はしなくてもいいよ。ふたりが怖いんだったら、この話は無しにしよう」


「肝試しって奴か……怖いのは少し苦手だけど……こういうの、ちょっと憧れてたから……頑張るよ」


「もちろん、私は全然平気にゃ」


 ……マジか。


 完全に自業自得だけど、七不思議を調査しに行く流れになってしまった。


「そういうことなら決まりだにゃ。元々、私もみんにゃに一緒に調べてみにゃいかって提案しようと思ってたから、ちょうどいいにゃ」


「へえ。それは……何で?」


 フーの質問に、ネルが真面目な顔で答える。


「この間の魔物は噂を作って悪さをしてたじゃにゃいか。だから、この学院の七不思議もそういうやつが関わってにゃいか気ににゃってにゃ」


 先日、スペクターという魔物がなりたい自分になれる方法という嘘の噂を利用して、人々をおびき寄せ、洗脳して操りこの街を支配しようと画策していた。


 その企みは、たまたま別件で街を駆け回っていた私たちが発見し、対処したことでそこまで大きな騒ぎになることなかったけれど。


「そういう話なら、先生とかギルドとかに調べてもらった方がいいんじゃないの? その方がいいって。もし本当にスペクターみたいなのが絡んでいたら危ないし」


 私は七不思議調査を無かったことにできるチャンスとばかりにネルに喰ってかかった。


 一応、言っておくけれど、これはあくまでパーティーの安全を確保するためである。


 別に夜の学校が怖いからとか、そういう理由ではない。


「確実性がにゃいのに、先生やギルドの人たちの手は煩わせられにゃいにゃ。それに、私たちにゃら、スペクターみたいにゃ奴がいてもきっと大丈夫にゃ」


 ネルの言葉にフーが同意した。


 もはやどうあっても行く流れだ。


 正直、行きたくない。別に怖いって訳じゃないけど、本当に行きたくない。


 でも、自分の言葉には責任を持つべきだとは思う。


 諦めて覚悟を決めると共に、もう二度と不用意な発言はしないようにしようと、私は心に固く誓った。

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