第8話

「お前、俺の剣に何をした!?」

「僕の力を少しだけその剣に分けたんだぁ。その状態で彼らの方を見てみなよ」


 促されるままに仙士達の方を見てみると、炎の向こう側に立つ彼らの身体の一部に闇が見えた。白の結い紐の仙士は肩、薄青の結い紐の仙士は右腕、紅の結い紐の仙士は左足に、剣に纏わり付いている霞と同じ色をした、渾沌とした黒い球体が現れている。


「それはあの仙士達の仙骨せんこつだよお」

「仙骨?」


 秀麗は彼の言葉に首を傾げる。それと同時に、仙士達の顔が若干引きつった。

 渾沌は続ける。


「仙士が仙士になるために必要なものだよぉ。仙士達は必ず身体のどこかに仙骨を持ってる。まあ『骨』とは言うけど、本当にそういう骨がある訳じゃなくて、もっと概念的なものなんだけどねえ」

「その仙骨が、仙士達を倒すのに関係すると?」

「その通り~。仙骨が仙士を仙士たらしめているから、仙骨を壊せば、仙士は死ぬよお。だからちょっと力を分ければ君も仙骨を認識できるようになると思ったんだよねえ。概念的なものも僕の領域に入るからさあ」


 渾沌は袖を口元に当てながら仙士達の方を向き直り、すっと目を細めてささやいた。


「君が彼らの仙骨を壊すんだ。黒く見える場所をその剣で切るだけでいい」

「だが、俺の剣技が彼らに通じるかは……」

「大丈夫。僕がなけなしの力を使って守ってあげるから。早くしないと、このまま本当に捕まっちゃうよ」


 気付けば既に辺りは炎に染められていた。木々を焼く炎がこちらに飛び散り肌を焼く。

 秀麗は熱さで滲む汗を拭って剣を構えた。

 隣にいる黒い神は、仙界と地上界を混乱に導いた張本人。今の状況でも深淵のような瞳の奥で、自分には想像もできない危うい考えを巡らせているかもしれないのだ。

 しかしこの場を切り抜ける為には、この渾沌を信じる他に道はない。


「わかった。俺があの三人を倒す」

「ふふ、そうこなくちゃねえ」


 秀麗の意思を受け取った渾沌は、満足げな顔でくすりと笑う。

 仙士達が懐から新たな霊符を取り出した。

 それを合図に、秀麗は叫ぶ。


「いくぞ!」

「はぁい」

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