第三章 思いの行く先
第27話
1
「こら! 寝ないでください!」
怒号と共に、ヨミの部屋にばしんと机を叩く音が響き渡る。
「うう、すみません……」
「もう一度説明しますからね! 三十七行目を見てください!」
重い瞼をなんとか開きながら、ヨミは目の前の巻物とその向こうで長々とした説明を続ける女官を見比べた。
ヨミが蒼龍国に来てから約半月が過ぎたが、初日の短剣事件については相変わらず罪に問われてはいなかった。
部屋の外に四六時中見張りの兵が二人付いており、部屋の外に出るときも彼らとともに出なければならなかったが、監視と言うより単に警護の為のようだった。
雹藍と翡翠は警戒しているのか初日以来全く顔を合わせていなかったが、半月もの間牢に放り込まれていない事実から、きっとあの件は不問になったのだろう。理由は良く分からないが。
命だけは繫がって一安心しているヨミだったが、煩わしいことは多くある。
例えば見張りのせいで皇帝暗殺計画をなかなか実行できないこと。例えば至る所から「蛮族が」と蔑む声が聞こえてくること。例えば後宮の他の后達が毎日嫌がらせをしてくること。そして蒼龍国についての勉強もそうだ。
皇后になるためには、この国の事を知らねばならない。
そう言われてヨミは礼儀作法から、琴や裁縫、昨日は宮廷内の人事や後宮のあれこれまでを学ばされた。
そして、何故後宮の他の后や女官達から目の敵にされているかをようやく理解できたのである。
曰く後宮には現在ヨミ以外に六人の后がいるのだが、彼女達にも優劣があり、皇帝の后である皇后が一番高い位となる。そして本来新たに入った后は一番下の位になる筈なのだが、雹藍は諸々の手続きをすっ飛ばして新参のヨミに最高位を与えようとしていたのだ。
どんな理由があるのかは知らないが、それはさすがに后達も怒って然りの状況である。
そして后達の嫌がらせを受けるヨミにとっても、迷惑なことこの上ない。彼女達の手によって、日々窓から部屋に投げ込まれる虫や蛇や蛙たちの片付けは、蒼龍国に来てからのヨミの日課になってしまった。
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