第8話
「どうしてここに笛の嬢ちゃんがいるのか説明してくれな、おいら達気になって仕事どころじゃないんや」
続いて残り二匹のイタチも、ヨミの左肩と頭の上に飛び乗った。やはり重さは感じないが、彼らのふわふわとした体毛が頬や首に触れてこそばゆい。
むずむずするのを堪えているヨミをよそに、精霊たちは尻尾を右へ左へと振りながらジウォンに向かって口々に言う。
「そうだ。これはどういうことだ? 何かあったのか? 星が降るのか?」
「ついに男気見せたの~? やるねぇジウォン~」
「全部話さんと、おいら達なにもやらへんで~」
からかい口調の精霊たちに、ジウォンは身体を震わせながら顔を真っ赤に染めあげる。
「ヨミはいつも手伝ってくれてるの! お前達に会わせると面倒だから会わせなかっただけだ! 僕とヨミの間にはなにもない! 全然何にもないんだから!!」
「……それ、自分で言ってて悲しくならないか?」
精霊たちは若干引き気味になりながら、ジウォンの言葉に心底哀れむような瞳を向ける。
「うるさいよ!!」
彼は怒鳴りながら精霊たちの首根を持ってヨミの身体から引き剥がしていく。しかしいつも温厚な彼がここまで腹を立てるのは珍しい。
三匹とも剥がし終えたジウォンは、後ろ足だけで地面に立つ彼らを指さし命令した。
「早く仕事を終わらせて!」
「ちっ。わかったよ。うるさいな」
「つまらんなぁ~。やっぱへたれ男はへたれ男のままなんかぁ~」
「そんなんじゃいつか誰かに奪われて、一生独り身だよ~」
三匹の精霊たちは文句を言いながら、つむじ風に乗って姿を消した。どうやら持ち場に戻ったらしい。
ジウォンは大きな息を一つつき、ヨミの顔を見て苦笑いを浮かべる。
「ごめんね、ヨミ。あいつら、時々仕事の手伝いをして貰ってる精霊たちなんだけど、ちょっと興味旺盛でさ。あいつらの言ったこと、あんまり気にしないでいいから」
「大丈夫だよ。でもジウォン、好きな子なんていたんだね」
ヨミの言葉に、ジウォンは突然顔を真っ赤にして「へっ!?」と頓狂な声を上げた。
「あっ、いや、まあ一応僕にもそういう子はいるけど、でもまだ時期じゃないっていうか……」
「ふーん」
耳まで染まった彼の顔を、ヨミはじっと見つめた。
幼いころは女に間違えられる程だった彼の身体は、成長してからも線が細く、表情も柔らかな印象だ。
本人はもう少し男らしくなりたいと言い続けているが、これはこれで女に好かれそうな顔だとヨミは思う。
「ジウォンなら大丈夫でしょ。さっきの精霊たちも言ってた通り他の人に取られるかもしれないし、思い切って告白した方が良いんじゃない? あたし、応援するよ!」
それは心からの声援だった。しかし何故かジウォンは、悲しげな顔をして肩を落とす。
「……ありがとう」
「あれ、ジウォン? どしたの?」
首を傾げるヨミに、ジウォンは「なんでもないよ」と首を振った。しかしその顔に浮かぶのは暗く沈んだ表情である。
「大丈夫だから……。あっ、僕、商品の毛糸と干し肉持ってこないと……」
ジウォンはふらふらとおぼつかない足取りで家の方へと向かっていく。
どう考えても何か思う所があるのだろうが、彼自身が言おうとしないのでそれ以上追求しないことにした。
「待ってよジウォン! あたしも手伝うからー!」
ヨミは気を取り直し、先に行ってしまった彼の背中を追いかけた。
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