饕餮と呼ばれた少年の話
yomiasawa
第1話
それは神や妖怪が今より身近な存在であった頃の話。
ある山間の小さな村に、一人の少年がいた。
赤子の頃にはやり病で両親を亡くしたが、優しい村人たちに囲まれてすくすく成長していった。
よく食べ、よく遊び、よく笑う。
明るく快活な少年は、村の誰からも愛される存在だった。
そんな彼に異変が起きたのは、少年が十歳になったある時のこと。
食べても食べても腹が膨れなくなったのだ。
元々食欲旺盛で、細い体の何処に入るのかという程食べる量も人一倍多かった。
しかしその時は、腹の中にまるで溜まっていないような、身体の中に入る前に食べ物が消えてなくなっているような、そんな感覚を覚えていた。
腹が、減った。
いつしかその言葉ばかり頭の中に浮かんでくるようになった少年は、手当たり次第にものを口の中に入れた。
森で採った果物も、川で獲った魚も、山で獲った獣も。
時間があれば食べ物を見つけては口にした。それでも腹は満たされず、遂に少年は草木や石まで食べ始めた。
少年の異変はすぐに村人たちに伝わった。
「あの子は饕餮の化身なのかもしれない」
伝説の中に記されている、なんでも食べてしまう貪欲な獣。四凶とまで謳われたその悪鬼に、少年の在り方は似通っていた。
「このままにしておくと自分たちの食糧がなくなってしまう」
だから、今のうちに殺してしまわねば。
そう思った村人だったが、優しい彼らには幼い頃から世話をしてきた少年を殺す事などできなかった。
一日かけて少年の処遇を話し合い、遂に決まったその結論は、少年を小屋の中に閉じ込めるというものだった。
「お前の奇行は、どうしても見ぬふりをすることなどできない。ここら一帯の食糧をすべてお前が食べてしまえば、私たちの食糧がなくなってしまう。かわいがってきたお前にこんなことをするのは心苦しいが、許してくれ」
そう言われた少年は、素直に村人に従った。
腹は減るけれど、自分を育ててくれた村人たちを苦しませたくはない一心で。
村長は少年にさるぐつわを噛ませて小屋にいれ、手枷と足枷で壁につないだ。
そしてぱたりと扉が閉められた。
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