33話 寝静まる夜




「「「ご馳走様でした」」」


「クルトやぁ、今日も美味しかったよぉ」


「はい、お粗末様でした」


 皆の食膳板を下げた後、料理番のクルトさんは俺に聞いて来た。


「我が自慢の呉汁、思う存分ご堪能できましたか?」


「はい!野菜の里芋と人参と大根の甘みと椎茸の香りを良くするための醤油の焼き入れ、七味唐辛子の辛味と大豆汁の味の着地が素晴らしかったです!美味しすぎて思わず、おかわりしちゃいましたよ!」


「…使った食材の内容を具体的に言われるとは!カブト様は、料理にお詳しいのですね!」


「今は汁物ぐらいしか、飲めませんけどね…それでも〈部分共有〉というスキルで、料理の味を俺に教えてくれた人のお陰で、食べる喜びを知った経緯もありますよ」


「そうだったのですね!カブト様…我は、感激しました。カブト様が居る間は、我が腕によりをかけ、作って差し上げましょう!」


「ありがとうございます!」


 この世界に生まれ変わって、レヴィアに食べる喜びを思い出させてくれたあの時が遠い昔と感じる…懐かしいなと思っていると、他の皆は様々な反応をする。


「コンは、カブト様がとても羨ましいです!」


「ワタクシは、弟には嫉妬しますね」


「わっちは、料理番の手料理を喜んでくれるとはぁ、誇らしいねぇ」


 ビャビャさんは、障子が空いているスペースから外の景色を見て呟く。


「そろそろ夜も遅いからねぇ、子供は寝る時間だよぉ。お開きにするかぃ」


 コンは使命感と共に俺を見て立ち上がり、両肩を掴まれる。


「コンは、カブト様を寝かしつけてきますね!」


「カブト坊ちゃんおやすみやぁ」


「カブト様、ゆっくり休んでくださいね」


「カブト様、おやすみ」


「はい、おやすみなさい!」


 そうして、俺はチャコンと手を繋ぎながら一軒宿に戻ったのだった。







 夕食後に部屋に残ったビャビャとラルトは、カブトについて話し始めた。


「ラルトやぁ、カブト坊ちゃんをどう思う?」


「どう思うとは?」


「見たまんまの事よぉ」


「はい、ワタクシ的にはそうですね…最初は大人の一面と楽しそうに観察する子供っぽい一面、和のマナーを知っている部分、地下の冷蔵倉庫での対応、まるでお偉いさんの坊ちゃんかなと、ワタクシは思いました。そして、生まれてからまだ間もないと思います…2年も経っていないって所でしょうか」


「本当に見たままの感想ねぇ。年齢は恐らく合ってるよぉ。ラルトやぁ、わっちはなぁ。カブト坊ちゃんをちょーと覗かせてもらったんやけど…」


「夕食を食べる前、カブト様に囁いた際にですか?」


 ビャビャの目を細めて、返答する。


「そうやよぉ。それでなぁ、種族が水神の守護鎧っていう名前やったんよ。驚いたわぁ」


「水神ですか…現存する3神の一人に従順なガーディアンってところでしょうか?」


「わっちはそう思っているよぉ。それと最近なぁ、他国で起こった物騒な事件覚えとるぅ?」


「忌々しい人体実験ですか…様々な種族配合が行われ、半壊しても国を守り抜いたノーラン帝国の事ですね」


「そうよぉ。その事件でぇ、逃げ出した実験体1名は行方知れずのまま閉幕した事件やなぁ。わっちは情報を集めといたけどぉ、3週間前にわっちらが滞在している近くにぃ、滅びた王国跡地があるらしくてなぁ。そこで姿を消したらしいよぉ。水神と名の付く種族のぉ、カブト坊ちゃんが出張ってきたちゅーのは、大事おおごとな気がせんかぃ?」


「確かにそうですね…ビャビャ様は、運命に巻き込まれやすいですね」


「わっちが管理しているの宿命なんやろうなぁ」


「宿命ならば、ワタクシとチャコンで何とかしますよ。無理な場合は、ビャビャ会長に頼ってしまいますが…」


「ええよええよぉ!その際わぁ、わっちがなんとかするよぉ」


「その返答を受け取れて、心強い限りです。それと…カブト様はどうされますか?」


「カブト坊ちゃんは子供なんだよぉ、今後の旅路のサポートかねぇ」


「ビャビャ様の言う方針でワタクシは従います。ワタクシもチャコンもクルトも、カブト様を気に入っていますから…出来る限りお力添えするつもりです。チャコンには、カブト様と一緒に居る間、身の回りのお世話をするように伝えておきますね」


「ラルトぉ、頼むよぉ。その方がカブト坊ちゃんとの関わりが増えそうやしぃ、楽しくなりそうやなぁ…わっちは今宵、気分が良いしぃ、一緒に果物葉巻で一服するかぇ?」


「ビャビャ会長のお言葉に甘えて、一本だけ頂きます」


 ビャビャの行く道の障子をラルトが開けて、和風庭園が見えるベランダへ向かい、デッキチェアに座り込み、2人で香りと景色を楽しみながら、静かに夜を過ごしたという。






 一方その頃、チャコンとカブトは一軒宿に辿り着き、布団を敷いていた。


 俺とチャコンさんの布団が隣同士になったので不安になり、口を開く。


「チャコンさん。ビャビャさんとラルトさんに俺の事で何か聞きました?」


「コンは聞いていないです!」


「それならいいんですけど…なぜ隣同士で寝る事になってるんですか?」


「コンはビャビャ会長とラルトに頼まれてるからです!そして、この古旅館にいる間、カブト様の事の身の回りのお世話は、コンに任せて欲しいのです!」


「わかりました。居る間だけですからね!」

 

「では灯り消しますので、布団に入りましょう!」


「あ、はい」


 俺は布団に入ると、枕がとても柔らかかった。

 隣を見ると、チャコンさんは俺の方を向いて横になる。

 そして、眠る前に自身の不安を口にする。


「チャコンさん…俺の秘密を知っても変わらずに居てくれますか?」


「カブト様、コンは大丈夫ですよ。本日、カブト様と出会って、様々なカブト様を見て信用できると思ったのです。ビャビャさんとラルトさんもきっと大丈夫です。コンが保証します。じゃないと、古旅館にまで辿り着けてないです。…少しは不安もなくなりましたか?」


「はい…俺は今日この村に辿り着いて、いきなり泊まる事になって驚きの連続でしたけどね」


「ふふっ!カブト様は運が良いのですよ、きっと」


「そう思っておきます。それではおやすみなさい」


「はい、カブト様。おやすみなさいです」


 俺は安心したので、仰向けになり眠りに落ちるのだった。

 それを見たチャコンは、寝顔可愛いですーと思いながら見つめていたとか。







 夢の中だ…真っ白い世界にある一つ扉がある。

 俺はそこに向かって歩き、扉の前に辿り着く。


「トビラ君、こんにちわ!」


 俺はなんとなくそう言うと、キコキコ音を鳴らしながら返事をしてる様子だ。

 その後、扉は全開に開き、神界の図書館に足を踏み入れていく。

 いつも通り、遊戯の神アメモが椅子に座って本を読んでいる。

 アメモの服装が、白のベルテッドワンピースを着ており胸が強調された姿だった。

 俺が近づくと、アメモは顔を上げる。


「カブト君、久しぶり!元気だった!?」


 いつも以上にパーッと明るく、嬉しそうな表情をしている。

 

 デートの待ち合わせみたいだった。

 俺の姿は、毎回寝た時の姿だけどな。


「おう!アマモの服装いつもより似合ってるぞ!」


「カブト君の為にオシャレして良かったー!楽しみにしてたんだから!」


「俺もだよ!それとな、俺はとうとう旅に出たぞ」


「うん、ボクは知ってるよ!」


「知ってるのかよ!」


「それよりも座って座って!」


「はいはい、座るよ」


 俺とアメモが向かい合うように座ると、アメモはニコニコだった。


「今日カブト君を呼んだのは、相談だよ!」


「賭け事する時に、相談役って言ってたもんな」


「そだよ!早速だけど、ボクから早速本題だけどね…」


 アメモは机の本を開き、絵本のページを浮かばせ、俺に見せて来た。


「この子の運命ってどうすればいいと思う?」


 その場所は、監禁された鉄格子がある石畳の部屋に、横たわるリス獣人の少年の姿が映し出されていた。


「監禁か…」


「そう…とある貴族に監禁されてるの。ちなみにボクが持つペンで、この本の書き換えを行うと、悪戯の干渉ができるよ!君ならどうする?」


「難しい問題だな」


「そうだよ!ボクの悪戯で救いたいと思ってるんだけど、カブト君はどう?」


「うーん。周りの事情が分からないと、どうしようもないんだが、出生のヒント貰えるか?」


「ヒントね!人族と獣人のハーフだよ!メイドで務めてたって言えばいいかな?」


「悪趣味だな!」


「しょうがない事だよ。どんな種族でも腐ってる人間がいるからね。カブト君の言う事も分かるよ。けどね、ボクにできるのは悪戯の干渉だけだよ」


「アメモの悪戯だけかぁ…」


 俺はそう一言呟き、ニコニコするアメモに見られながら、考え込むのだった。




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