第29話 見送りと獣人の村




「ナイア、フロマとモルビエ!それと、ラメル行ってくる!」


「…いってらっしゃい」「ワフッ!」「ワンッ!」


「じゃあ、カブトよ。行くかのう。〈階層転移〉じゃ!」


 ナイア達は、住み家で俺を見送った後、レヴィアの〈階層転移〉で、第一層の間に転移する。

 俺とレヴィアは、迷宮の迷路を手を繋ぎながら歩き始めた。 

 

 レヴィアの歩幅に合わせて、俺は歩いていた。

 因みにレヴィアの服装は、水色のパーカーに短パンで、スポーツ下着を着ている。

 スポーツシューズの革靴も履いており、愛用している恰好だった。

 レヴィアの後ろ姿は、パーカーから尻尾が出ており、俺もその姿を気に入っている。

 レヴィアの尻尾を絡ませると、レヴィアは俺に甘えてくるので、軽率にはできないけど。


 そして、俺の服装の姿というと、冒険者の古着姿に似せた服装をしている。

 外の世界に他の人種と出会ったとき、どんな反応をされるか想像できないので、古着を作って着ていた。

 靴は木靴なので、靴下と一緒に履いている。

 マントもあるし、そこまで気にならないだろうと思っている。

 

 俺は、レヴィアと話ながら、出口まで歩いていた。


「まさか、〈階層転移〉を出口へ直行出来ないなんて思わなかったよ」


 「〈階層転移〉をしても、出口までは行けんのじゃ。制限が掛けておるし、他に出る方法など、最終ボスのワシを倒せと言ってるようなものじゃよ」


「レヴィアを倒せなんて、どんな尋問だよ!」


「カッカッカ!カブトは、言うようになったのう。嬉しく思うぞ!」


 レヴィアと他愛もない話をして歩いていると、外の光が見えて来た。


「外に出るのは、いつ振りかのう」


「そんなにダンジョンの外に行ってないのか?」


 俺の質問に対して、レヴィアは思い出している様子だった。


「確かじゃが、王国が滅ぼされた後、ワシは1度しか出てないのじゃよ。実に490年近くかのう」


「想像できない年数だな。ダンジョン運営してたら時間はあっという間か」


「時間の感覚など、家族が出来たほうがよっぽど長く感じたのう」


「同意見だな。レヴィアの住み家に来てから、俺も毎日が濃かったよ」


「そろそろじゃのう。外の様子はどうなってるかのう」


 レヴィアと俺は、樹木や緑で覆われた洞窟から外へ出た。

 あたりを見渡すと、瓦礫や跡地みたいな所がちらほら。


「樹木が生い茂っておるのう。ワシのダンジョンに来る者が、長年見つからない訳じゃな」


「確かにそうだな。俺が生まれた階層で、初めて部屋から出た時のことを思い出すなぁ」


 レヴィアは俺に振り返り、両手を掴んでくる。


「カブトよ。ワシを抱えて空を飛んでくれないかのう?どれだけ変わっておるか見てみたいのじゃ!」


「おし、任せろ!」


 レヴィアをお姫様抱っこして俺の首に腕を回してもらい、〈浮遊〉で見渡せる高度まで上がって、辺りを見渡す。


「王国の見る影もないのう。これも時代の流れかのう」


「思い入れがあったのか?」


「娯楽として、色々王都を巡ったぐらいじゃよ」


「ふーん」


「ちょっと、方向を変えてくれるかの?カブトよ!」


「分かった!」


 俺は方向転換すると、レヴィアの目は、遥か遠くの場所を見ている様子だった。


「ふむ。ワシの見る先に村があるのう。その先には町があるのう」


「俺は、ただの森にしか見えないけどな。遥か遠方にあり得ないサイズの巨木が見えるんだけど、気のせい?」


「気のせいではないのじゃ。ワシは行った事無いのじゃが、遠目で見た限りじゃと、様々な種族が住んでいる居るようじゃのう」


「目的地は、あの巨木を目指せばいいってことだな」


「行ってみると良かろう。辿り着ければ、新たな発見があるかもしれんのう。まっ、着いてからのお楽しみじゃの」


 レヴィアの目に何が見えていたのか、詳しく教えてくれなかったが、何か心当たりがありそうな発言をしていたが、俺はこれから冒険に、ワクワクが止まらなかった。


「そろそろ、地上に下ろして欲しいのじゃ」


「ああ、ゆっくり降りるからな」


 俺はレヴィアを地上に降り立った後は、レヴィアは少し寂しそうな顔をする。

 

「ワシにとっては、短い時間じゃったが、お主の家は、ワシの住まう家じゃ。アメモが何を仕掛けてくるか予想が付かんが、大事になるのは目に視えておる。カブトとナイアでも対処しきれないと判断した際は、必ずワシを頼るのじゃよ!」


 レヴィアは俺に伝えたことを全て言った後、ぎゅっと抱き締められた。


「今生の別れじゃないんだからさ。レヴィアが稽古で俺を鍛えてくれたお陰で、俺個々としても守れるから大丈夫だ。帰ってきたら、新しい料理を振舞ったりするからさ。楽しみにしててくれ!」


「うぬ…!」


 少し経つと、落ち着いた様子で俺から離れる。

 我慢できず、レヴィアは涙を流し始めたので、〈異空間収納〉からハンカチを取り出し、レヴィアの涙を拭き取ると、俺に微笑んだ。


「旅のお土産待っとるのじゃ!」


「ああ、それじゃあ行ってくる」


 俺は、〈浮遊〉で空高く飛んで、レヴィアの方に目をやると、レヴィアは手を振り、俺の姿が見えなくなるまで見送るのだった。


 カブトが見えなくなった後、一人になったレヴィアは呟く。


「行ってしまったのう。さて、ワシもやるべき事を始めるかのう!」


 涙を拭いてレヴィアは、住み家へ帰還するのだった。







 俺は〈浮遊〉で空中から森林の抜けた先を進んでいると、村に繋がるであろう道が見えたので、降り立つ。


「レヴィアが言ってた、村がこの先にありそうだな」


 俺は、〈異空間収納〉からマントを取り出して、頭から深く被る。


「これなら、誰かに見られても大丈夫だな。怪しまれなければいいけど、周りに何もいないかな?」


 俺は〈マップ探知〉発動すると、青い点滅がいくつか発見した。


「道の途中に村がある感じだな。どんな種族が住んで居るんだろうなぁ。擬態しているとはいえ、少し不安だ」


 不自然さを出さないように、俺は足を進めると、村が見える。

 丸太の柵で囲まれた門に、門番が立っており、その姿は3メートルありそうな熊の獣人で、見た目は熊が服を着て立っている姿だった。


 俺が近づくと、珍しい顔をして優しい声を掛けられる。


「よお、坊ちゃん!おや?珍しい。こんな辺境の村に来るなんて」


「どうもです。俺は旅の者です」


「ちなみに、顔を見せるのは可能かい?坊ちゃん」


「はい。大丈夫です」


 俺は、躊躇わずにマントのフードを外すと、耳後ろに垂れた角を晒した。

 角を消すのを忘れて焦ったが、熊の門番は、物珍しい様に見てくる。


「こりゃあ驚いた。お前さん龍人族だな」


「そんなところです。見たことあるんですか?」


「ああ、俺が子供だった時にな。坊ちゃんが怪しい奴じゃなくて安心した。通っていいぞ」


「ありがとうございます。ちなみに俺、お金持ってないんですが、平気でしょうか?」


「坊ちゃんは、肉とか持ってるか?門をまっすぐ進むと、目に入る看板があるからよ。そこに商人対応の役人が住んでるから、物々交換かお金にできるぞ。村の者に聞くといい」


「分かりました。ご丁寧にどうも」


「良いって事よ!坊ちゃんの名教えてもらっていいか?」


「はい!俺はカブトと言います!」


「覚えたぞ!ダイモンだ。宜しくな龍人族の坊ちゃん!」


 軽く握手を交わした後、俺は熊さんに頭を下げてから門を通る。

 門の先には、ログハウスが並んでおり、様々な獣人から、珍しそうな目線を浴びながら、商人の役人がいる所へ足を進めた。

 

「本当に分かりやすいな。肉のマークがついてる」


 肉の看板が付いてるログハウスのドア横に足を進めると、小さなベルがあったので、紐を掴んでカランカランと鳴らしてみる。

 

 ドアの先から、「今いくからちょっと待ちぃ」と言う女の声が聞こえた。


 少しすると扉が開き、大きなモフモフ3本尻尾と、狐耳と普通の人間の顔で両頬に3本の髭を生えた白狐の女性の獣人が、赤い花柄の模様がある白い浴衣姿で顔を出した。


「小さい坊ちゃんかい。何の用かね?」


「肉を持っているので、お金と交換したいと思って来ました」


「手ぶらだけど、収納系のスキルでも持っているのかい?」


「そうです」


「家に入ってくださいな。珍しい食材なら買い取るでぇ」


 俺は、白狐の獣人に案内されるように、商談部屋に付いて行く。

 部屋に辿り着くと、椅子へ座ってと手で合図されてソファーに座る。

 フカフカで柔らかいクッションソファーだった。


「申し遅れましたわ。あたいの名前は、ビャビャが名前や!宜しゅうな」


「俺は、カブトと言います。此方こそ」


 ビャビャに手を差し出してきたので、握手を交わした。

 この出会いが、俺の旅路を手助けしてくれる存在になるのは、少し先のお話。



 




 此処まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

 これにて、1章終了となります。

 2章の物語も宜しくお願い致します!


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