クラスの美少女にイヤホン取られたらなぜか懐かれた
はくすい
第1話 クラスの美少女にイヤホン取られた
とある日の昼休み、俺こと御坂 遙日(みさか はるひ)はいつも通り両耳にイヤホンをして、耳かきASMRを聴きながら三階の窓からグラウンドを見下ろし、黄昏ていた。
「やっぱ落ち着くなぁ…。これだよこれ」
視覚ではグラウンドの周りに生えている緑が柔らかな風で揺れる風景を捉え、聴覚では俺の心を安らかにほぐしてくれる耳に優しく流れる耳かきASMRの音を聴き、触覚では窓から吹き抜ける柔らかな風を感じる。
人間の五感のうち三つの感覚を一気に体感できるそんな瞬間を俺は毎日の生きる糧とするくらい心から楽しんでいた。
はぁ…、やっぱり三日月うさぎ様のASMRは最高だ…。
なんと言ってもその音質が堪らなくいい。
100万円越えのマイクで録音された、耳かきでカリカリする時の音圧がこれまた最高だ…
なんてそんなことを考えていると俺の席に近づいてくる人影があるのを感じた。
無視無視、どうせ俺には関係ないし
そう高を括った遙日は近づいてきた人物に逸らされた意識をイヤホンへと戻し、また心地よい世界へと没入しようとしたが───
───俺の前まで来たその人影がそうさせてくれなかった。
「ねぇ、何聞いてんの?ちょっと聞かせて」
「あ、ちょっ!」
そう言って強引に俺の耳からイヤホンを取り上げてきたのは成績優秀で運動神経抜群、亜麻色のロングな髪型で青い瞳を持つ学校のマドンナである天音 瑠奈(あまね るな)だった。
そんな彼女は負けず嫌いで有名で、成績優秀というのはそんな性格から来ているらしい。
彼女と俺との関係と言えば同じクラスであると言うくらいだ。
それなのになんで急に話しかけて来て、イヤホンを取り上げられているんだろうか。
少しの間思考してもいまいち理由の掴めなかった俺はとりあえず取り上げられたイヤホンを返してもらえるように促す。
「イヤホン返してくれない?」
俺がそう声をかけるも、瑠奈は無視して強引に取り上げたイヤホンを耳にはめた。
「ふぅん。あんた、こんなの好きなんだ?」
イヤホンから流れてくるASMRを聞いたであろう天音さんの口から出たその声は少し高圧的で、何故か怒りを露わにしているようにも見える。思わず萎縮してしまった俺は、情けない声で答えてしまう。
「は、はい。好きですぅ…」
あぁ、やってしまった。こんな声出したら「うわっ、陰キャきもっ!」とか、どこかで聞いたことあるセリフを吐かれるに違いない。なんて思いつつ、どうやら会話が少し続きそうなので片耳につけたイヤホンをケースへと片付けいると、彼女から俺の予想を大きく裏切る言葉が返ってきた。
「…あたしの方が…、あたしの方がもっと上手に耳かきできるもん!!」
そんな突然の宣言に、俺はかっと目を見開いて瑠奈を見つめた。
この学年一の美少女が耳かきが上手だって…?なんの冗談だよ。
冗談なのはその整いすぎてる顔と完璧な頭脳だけにしてくれ。
「悪いけど、天音さんが俺の好きな三日月うさぎ様の耳かきを越えられるような技量を持っているとは思えないんだが?」
「ぜったい、ぜったい!私の方が気持ちいい耳かきできる自信あるもん!!」
そんじゃそこらのやつにうさぎ様の技量は越えられる訳が無いと挑発的に言うと、瑠奈は顔を真っ赤にして俺を睨みつけてきていた。
「へぇ、?そんなに自信があるのか?」
「もちろん!三日月うさぎとか言う変な名前のやつよりずぅーっと私の方が上手だから!」
「なんでそんなに自信あるんだよ…」
瑠奈は少し不機嫌そうに俺を睨むと、ふいに少し恥じらうように視線をそらし、小声でぼそっと呟いた。
「…バイトしてるのよ、耳かき屋さんで」
「え?」
思わず聞き返す俺に、瑠奈はさらに恥ずかしそうに頬を染めながら続ける。
「だから、バイトしてるから三日月うさぎとかに負けるわけないって言ってるの!仕事なんだから、耳かきの技術も心得てるんだからね!」
予想外続きの展開に俺は一瞬言葉を失ったが、少しして笑みを浮かべまたジャブ程度の軽い挑発する。
「高々バイトしてるってだけで本業でやってるうさぎ様に勝てるとでも思ってるのか?」
すると瑠奈はまた負けず嫌いな性格通りの反応をするのは予想通りだったが今までとは違う雰囲気を感じた。
俺がここまで挑発しているのも悪いが、何が彼女をそこまで奮い立たせているのか…?と遙日はふと疑問に思う。
「わかった。そこまで言うなら証明してあげる」
「証明って…、どうするつもりなんだ?」
「…、ちょっと待ってなさい」
何やら天音ははスマホを弄り始めた。
なんなんだ一体…、何をしてるんだ?と少しドキドキしながら待っているとしばらくして何かを調べ終えた彼女はスマホの画面を俺へと向けてきた。
そこに映し出されていたのは天音さんが働いている店舗の位置情報で、どうやら学校の割と近い位置にあるらしい。
「ここでバイトしてるから今日の放課後来て。私のテクニックであんたのド肝を抜いてやるんだから」
そう言ってズカズカと瑠奈は自分の席へと帰っていった。
一体なんだったんだあの剣幕は…、まるで嵐だな…。
自席に戻る彼女の背中を見ながら遙日はぽつりと呟いた。
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