彼は彼女になった

藤桜

第1話 それは突然に

 僕、南篠琉夏なんじょうるかは歴とした男子高校生!……のはずだった。

 一体、どうしてこうなったのだろう? 確か昨晩は幼馴染で大親友の北山冬李きたやまとうりの部屋で一晩中ゲームをやっていたはず……。

 しかし今、鏡に映って居るのは女装した男の僕ではなく正真正銘女の子になった僕だ。

 この一体何が……!?

 遡ること数時間前。夏休みを満喫していた僕は冬李の家に泊りで遊ぶ為炎天下の中歩いていた。

 家に着きインターホンを押したが返事が無い。確か冬李の両親は明日の夜まで居ないと言っていた。

 玄関の鍵が開いている。僕は中に入った。


「冬李居るー? アイスと飲み物買ってきたよー」


 呼んでも返事が無い。僕はスマホでメッセージを送った。

 しばらくすると冬李が階段から降りてきた。


「すまんすまん。曲聴きながらちょっと筋トレしてたわ」


 筋トレが趣味の冬李はガタイが良く女子の間でも人気だ。

 男の僕から見ても羨ましい体形だ。

 それに対して僕は背が低く筋肉もあまりないため昔からよく女の子みたいとからかわれている。


「これ頼まれてたアイスね」

「おぉ、態々すまんな。さっそく、昨日のゲームの続きやろうぜ」

「いいよ。武器も強化したし今度こそボス倒そう」


 僕たちは先日発売したゲームにハマっている。

 冬李とは幼稚園からの仲で昔から色々なゲームをやったりして遊んでいる。

 僕たちは冷房の効いた部屋でゴロゴロしながらゲームを始めた。


「もうそろそろ夏休みも終わりだな。琉夏は宿題どれくらい終わったんだ?」

「宿題なら7月中に終わっているよ? あれくらい数日で終わるからね」

「マジかよ……俺なんてまだ数学と英語が残っているんだよな……」

「冬李は毎年ギリギリで終わらせているもんね」

「いや、中3の時は間に合わなかったぞ」

「それ自慢することじゃないよ……」


 他愛もない会話をしながらゲームをやったり時々漫画を読んだりした。

 漫画を読んでいると静かな部屋に冬李のお腹の音が響いた。


「あ~、腹減ったな。もう19時か」

「どこか食べに行こうよ。何食べたい?」

「ん~、今はハンバーガー喰いたい気分だな。琉夏は?」

「僕もそれでいいよ。CMで新作出たって言ってたし」

「それじゃ行くか」


 僕たちは少し歩いたところにあるハンバーガーショップへ向かった。

 ここは昔からあるお店で小さい頃からよく来ている。

 夏休みの夜だけあって店内にはいつもより多くの学生が居た。


「えっと僕はこのホワイトダブルチーズバーガーとドリンクMサイズにしようかな?」

「それだけでいいのか?」

「これ結構大きいからね。冬李はどうする?」

「俺はそれにポテトLとナゲットを追加で」


 僕たちは注文した商品を受け取り席について食べ始めた。

 食べている間にも多くの人がやってきて店内はさらに混み始めた。

 席もほぼ満席状態だ。


「だいぶ混んできたから早めに出た方が良いな。さっさと帰ってゲームの続きでもやるか」

「そうだね。僕、ゴミ片づけてくるよ」

「おぉ、サンキューな」


 冬李の分のゴミも受け取りゴミ箱へ向かっていると突然横の席から出てきた人にぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


 見るとそこには茶髪の男性と金髪の男性の二人組が居た。

 どうみてもヤバそうな人たちだ。

 すると茶髪の男性が僕に詰め寄って来た。


「あぁ? いてぇじゃねえか。ちゃんと前を見て歩け」

「ご、ごめんなさい……」

「詫び入れろよ」


 茶髪の男性が僕を睨み、その横では金髪の男性がヘラヘラ笑っている。

 すごく怖い。手が震えている。

 周りの客はみんな見て見ぬふりをした。

 すると僕を庇うかのように冬李がやって来た。


「俺のダチになんか用っすか?」

「べ、別になんでもねぇよ。行こうぜ」

「あぁ」


 二人組は逃げるかのようにお店を出て行った。

 大人とは言え筋トレで鍛えている冬李を見たら普通はビビってしまう。


「怖かったぁ……」

「気を付けろよな。夜はあいつらみたいの多いから」

「でもその時はまた冬李が助けてくれるもんねっ?」

「バッ、バカなこと言うなよ。助けたお詫びに今度アイス奢れよな」


 冬李は照れていた。

 僕達は家に戻りお風呂に入った後もゲームの続きをやった。

 気が付けば時刻も0時を過ぎている。

 いつもならとっくに寝ている時間だ。

 もっと遊びたいけど徐々に睡魔が襲って来た。


「おーい、琉夏。そろそろ寝るか?」

「うん……もうダメかも」

「ベッド使っていいから。俺はもう少しゲームやってるわ」

「ありがとう~」


 僕はコントローラーを床に置くと倒れるかのようにベッドで眠ってしまった。

 夢の中で僕は女の子で冬李と手を繋いで下校している。

 なんか変な感じだ……。

 でも僕が本当に女の子だったらこうなっていたかもしれない。

 女の子になった僕と冬李は付き合っているらしくキスをする瞬間、僕は目を覚ました。


「(……っ! 変な夢見ちゃったなぁ……僕が冬李とキスって何なのあの夢は)」


 スマホの時計を見ると3時を過ぎていた。窓の外はまだ真っ暗だ。

 冬李はゲームをやりながら寝てしまったらしい。

 部屋の照明とテレビの画面が点けっぱなしになっていた。

 ベッド横にあったリモコンでテレビの電源を消すと暗くなった画面に変な感じの自分が薄っすら映って居る。

 背が縮み髪も伸びているような感じだ。というかこのTシャツこんなに大きかったっけ?

 近くにあった鏡で自分を見るとそこには女の子になった僕が映って居た。


「なにこれ……っ!? 声も少し高くなってる!?」


 夢なのかと思い頬をつねったりしたが目の前に映って居る僕の姿は変わらなかった。

 この姿は紛れもない自分。

 なんで? どうしてこうなったの―――!?

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