special military force

2ru

『「thief」』

銃撃戦は望まない

真剣に前を見つめ、歯を食いしばって銃を構える彼。小刻みに震え、憎しみのオーラが滲み出ている。もう敵はいないのに。

「落ち着いて...もういないよ?どっか行っちゃった...」

言った瞬間に緊張が解れたのか、急に倒れ出した。寝息が聞こえる。

「お疲れ様、よく頑張ったね。今は他の隊員達が後を追ってくれてるから、今日はもう安心して寝てていいよ」さすさす、と頭を撫でる。

サポーター達は状況に応じて黒い外車を用意してくれた。副隊長を後部座席に座らせて、シートベルトをした。そして車が動き出す。


気まずそうな沈黙の中、一人の黒服のサポーターが口を開いた。

「...二人って、どういう関係で...?」

繋がってる兄弟だね。血は繋がってはないけど、産まれた母親が一緒なだけ。」

「あっ...」聞いてはいけないことを聞いてしまったという顔をしているサポーターを落ち着かせるように

「ほぼ皆に言ってるから気にしないで、もしかして、知らないの君だけなんじゃない?」

「なんとお恥ずかしい事ながら、全く聞いていませんでした...」

「あれは聞くも聞かないも自由だからね」

「良ければ聞きたいです...」

「そんな自慢話でもないけど、いいよ!」


___六年前、当時十三歳。

十歳までは、愛されていた。十一歳から母からの愛が冷たくなった。

十二歳、物心のつく年頃。簡潔に言うと、事。

十二歳は誕生日すら祝ってくれなかった。新しく産まれた僕の弟に夢中だった。そりゃあ当然。相手が海外の若社長だ。

「触るんじゃないわよ!」弟を溺愛し始め当然のように嫌われていた。

僕が最初の息子だと言うのに...


でも、母親が出掛ける時間は許されていた。じっくりと、その柔らかい肌に触れていた。それが至福の時間であり、地獄の時間だった。触れている度に、ここから出たくないという喪失感。でも出なきゃという悲しみ。弟に責任はないのに、弟の所為だ。そう感じていた。

弟はほにゃほにゃ言いながら、口角を上げて微笑んでいた。

でもそんな自分は今日の真夜中にここから出ていく事にしてしまった。「えへへ」と笑う弟をあんなクソ親に任せてしまっていいのか。でも仕方がないんだ。あそこにずっといるとすると、自分の命の保証ができない。身を守るためなんだ。ごめんね、弟。ごめんね、《リート》...。

握り返された指をそっと離した。


広い広い地下鉄を迷子になりながら抜けて、目的の番線に着き、飛行機を目指した。幾度と国境を超え、広い広い都市を目指してここに来た。

寮制でお金も手に入る軍。ここなら生きれそう!と思い、過酷な試験、試練を乗り越えて、トップを登り詰めた。


___三年前、当時十六歳。

ランキングは総合で一位を駆け抜けていた。世のため人のためを思い、幾度となき戦を乗り越えて十六歳。軍のトップである総指揮者となった。そして弟の事なんか、とうに忘れきっていた。そんなとき、新しいメンバーが加入された。元々自分が走っていたランキングを何事もなく奪い取っていた。それが二年前、十七歳。

そして昔いた軍にはこんな儀式が今でもある。

「ランキングトップを走る者は、総指揮に勲章を与えられる」

僕も与えられた。そしてトップを走る者に勲章を与える日、彼の正体が分かった。容姿、身長、笑い方、声色、その眼差し。

全て、

ドアが開いて、お互い目を丸くした。そりゃあ夢にも見た名も知らない兄さ。見たかったんだろうね、本当に気持ち悪いのかを。

あのクズから教えて貰ったのだろう。「気持ち悪い兄が居たんだよ」と。


弟は、初めて泣き顔をこちらに見せた。自分も泣いてしまった。必死に堪えていた感情を、二人とも同時に爆発してしまった。

「カイリ...!あの時なんで置いていったの...なんで置いていったの...!」

十歳とは思えない大きさになったなと感心した。

「ごめんね、ごめんね、お兄ちゃんが悪かったね、ごめんねぇ...」

僕はずっと背中をさする。

「探してたの..!世界各地回ってたの...!うわぁぁぁぁん!」

「ごめんね、ごめんね、うんうん、一緒に行けばよかったよね...」

十歳で世界各地って、ハードすぎる。どうやって無事にここまで来たの?

疑問が晴れないまま、ゆっくりとリートは泣き止んだ。

「お兄ちゃん、写真で見たよりずっと綺麗...」

「そう?こんな汚い黒い液体流してるのに?」 

「それがアイデンティティじゃん」難しい言葉を巧みに操る弟。

まだ『アイデンティティ』という言葉が難しくて分からないのに、リートは凄いなぁ...教育が良かったのかな?

「そうかもねっ」時々首を傾げる動作をしてみたら喜んでいた。

意外に子供なのかもしれない。

「お兄ちゃん、せっかくだからお願いがあるの」

「なんだい?」

「お兄ちゃんと、ちゅーが、したい...」顔が赤く照れている。可愛い。

「いいよ、リート君のこと困らせちゃったからね」

「僕ね、お兄ちゃんのお婿さんになりたいの」

「そうなの?でも無理かなぁ」

「でも血は繋がってなくても、心が繋がってるよ...!」

「そうだね、いいよ。なったげる!」

「ホントに?じゃあ、しようよ!」

「『誓いのキス』って事かな?じゃあ、もう僕はリート君から一生離れませんっ!約束します!」

「うん、約束だよ!」

「ちゅっ」とお互いの唇から音が鳴る。唇を当てていたはずが、いつの間にか舌が入ってきた。そして気がつけば馬乗りにされていた。両腕を捕まれ、「まだしてもいい?」と首を傾げてきた。せっかく会えた弟だもの、しないわけがない。「いいよ」と言ってしまった。

「ん、」ゆっくりと中に入っていき、舌が絡み合う。苦しくなってきた。

「カイリくん、もうどこにも行かないでね...」

「絶対どこにも行かないよぉ...」


「あっ、リートが起きちゃった」

むにゃむにゃ、と子供らしい声で呟く。

「続きはいつ聞けますか?」

「もう聞けないかな、言ったら怒られるじゃ済まされないし」

「そうですか、残念です...」

「でも、バッドエンドよりは良いでしょ?」

「ですね!」


二人だけの秘密なのだが、あのキスの時の絡み付いた舌が原因だろう。

あれ以来、リートは「兄ちゃんの婿だから♡」「僕はカイリのパパだから♡いっぱい孕ましてあげる♡」「カイリはママだから、ボクと二人でいっぱい子供作らなきゃね♡」とか言い、毎回ベッドで散々な始末をされてきた。それに体を許している自分もどうかと思うが、翌日リートがよく仕事をこなしてくれるおかげで、こっちはありがたい。

(リートの所為で業務に害が出ているのは置いておいて)



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