天上院時久の推理―役者は舞台で踊れるか―

巴 雪夜

役者が演じ、道化は踊る、何者にもなれないまま

一.舞台の幕が上がる

第1話 君の代わりに踊ろう


 これは君への届かない手紙だ。返事など望めないけれど、ここに綴ろう。


 どうして、君が死ななければいけなかったのだろうか。

 キミが何をしたというのだろうか。何も何も、そう何もしていないじゃないか。


 ずっと君を見てきた、傍にいた。だからキミのことをよく知っている。きらきらと瞬く星のように、春風に舞う桜の花びらのような君のことを。


 舞台に立てば誰もが目を惹き、その演技力に魅了される。透き通る声は空気を震わせて観客の心に響かせた。まるで現実に起こっているかのように演じ切るその力量は誰もが認める才能だ。


 汚すことは許さない、許されざる行為だ。それほどまでに君は輝いていたのだから。


 だというのに、周囲はそれを恋情によって汚すのか。

 解せない、解せない解せない解せない!

 あぁ、憎い、あぁ、醜い。君を死に追いやった奴らが憎い、憎い。


 平然と生きているあいつらが憎くて仕方がない。何事もなく生きていることに嫌悪を感じる。


 君の最後の叫びを、嘆きを、悲しみを忘れることができない。瞳から零れる涙を、想いを忘れるものか。


 君の想いを受け継ぐよ。君の代わりに遂行してみせよう。

 君のような演技はできないけれど、必ず演じてみせる。例え、素人演技だと、棒読みだと嗤われようとも。


 大丈夫、大丈夫。必ず、君の想いを、恨みを、憎しみをこの手で晴らしてみせる。


 これは最初で最後の演技になる。君のために舞台で踊る素人の醜い演技だ。


 綺麗事なんてくそくらえ! そんなもので君は戻ってきてくれないのだから。さぁ、観ていて。醜くとも酷かろうとも踊ってみせるから。




 しんと静まる舞台上にぶら下がる人形のような少女の前で一人、亡き彼女のために想いを綴る。


 仄暗いホールの舞台、スポットライトを当てられた少女が語ることはない。


 ぶらり、ぶらりと足が揺れて、まるで糸で吊り下げられた操り人形のようだった。半開きの眼に精気は無くて、苦しみに息絶えたような青白い顔を見て眼前に立つ人物は嗤う。


 ぶら下がる少女を見る瞳は冷たくて、それでいて軽蔑していた。



「お前が悪いんだ」



 吐き出すように言う、お前が悪いのだと。

 だんだんと怒りが湧いて、けれどぶつけるものもなく。胸元をぎゅっと握りしめて堪えた。


 瞳を閉じて数秒、ゆっくりと瞼を上げる。冷ややかな眼は鋭い輝きを見せていた。



未来みく、必ず演じてみせるから」



 誰に聴かせるでもなく、その言葉は空気に溶けて消えていった。

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