ヒロインは私が殺しました。

世々原よよ

第1話 プロローグ

「クレアって本当に可愛いよね!」

「私もクレアみたいに可愛かったらなぁ〜」

「おまけにものすごく優しいなんて… 本当に…」

「「「天使だよね!」」」


ヘッドホンから流れてくる、名前も知らない配信者たちの声。

(『虹恋』についてのトークをするらしいから見てみたけど…)


ポケットから取り出したスマホを操作して、生配信から退出する。


(みんな『クレア』ばかり…)


「虹恋」とは、最近流行っている乙女ゲームである。


伯爵家長女の主人公クレア・ルーシェンは、小さな頃から義母や義妹にいじめられるが、ふとしたことで魔法の才能があることが発覚。

7年間の学園生活で、たくさんのイケメンと仲良くなり、守ってもらえるのだ。

学園生活で出会う七人の攻略対象とともに、ちょっとした事件を解決し、仲良くなった先には色々なゴールが…


という、本当によくあるやつである。

こんなにありきたりなのに人気な理由は、とにかくイラストとビジュが良いこと。

そして何より、自分の分身として動かすクレアが、可愛いからだ。


…でも、私はクレアを好きになれないよ。

ただひたすらに前向きで、明るくて、包容力があって、頭も良くて、魔法の才能もあって、何より可愛くて。

「義妹にいじめられていて本当に可哀想」なんて世間の人は言うけれど、私にはそうは思えない。

一言喋っただけ、少し一緒に行動しただけで、好きになってもらえるなんて、どれだけ人生イージーモードなの?


私にも完璧な姉がいた。

美人で頭も良くて、優しい姉が。

姉が事故で亡くなった時、親戚のみんなは『よりによってなんで姉の方なんだ』と陰で言っていた。


だから私は痛いほど分かるのだ。

全てのルートでクレアの邪魔をし、壮絶なラストを迎える敵、義妹のレティーナの気持ちが。


もしも、最近流行っている小説のように転生ができるのなら、私はいつでも気高くかっこいいレティーナのような…


になりたい。





そこで私の記憶は途切れた。

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