第1話③「そんな牌リーチ後でも切らないわ」
ど、どうしよ~~~っ!!!
一位になっちゃった!!!!
てことはそれってこれってもしかして……。
わたしがハルくんになんでも命令できるってコト!?
海夏ちゃんはともかく、先輩がハルくんに命令することになったら危険すぎるからせめてそれだけは阻止しようと思っていたけど、まさかこんな最高の結果になるなんて!
わたしはつい心の中で絶叫してしまう。
いきなり麻雀大会が始まったときは驚いたけど、先輩が突然なのはいつものことだし、こうしてわたしが
「はあ……。 秋穂はやっぱりいろいろ持ってるよな」
反対側に座っているハルくんがぽりぽり頭を掻いて微笑んでいる。
ハルくんが時折見せる、困ったような、優しい笑顔。
わたしはその笑顔を見るたび胸がトクンと高鳴って、頭の中がハルくんでいっぱいになる。
はああううううう……。
ハルくんハルくんハルくん……。
好きぃ……。
◇
「ロンよ。チートイドラドラで6400」
「……はい」
先輩の思い付きで始まった麻雀大会は一瞬で決着がついてしまった。
本来半荘を一回遊ぶには三十分から一時間は軽くかかる。しかし今回はわずか数分で終了してしまったため、今はエキシビジョンマッチとして第二回戦が行われている最中だ。
「五行せんぱい、私を狙い撃ちしていませんか……」
恨めしそうに点棒を渡しながら、海夏が不満を零す。
今ので海夏は、この半荘三回目の振り込みだ。そして、そのいずれも先輩に対して放銃している。
海夏がつい愚痴を言ってしまうのも尤もだろう。
「いえ、海夏さん。 それは考えすぎよ」
先輩は気にも留めない様子で海夏が置いた点棒を自らの点箱にしまい、卓中央のスイッチを押す。
それにより天板の一部が開き、四人でそこに牌を落としていく。
そして別のボタンを押すと、きれいに揃えられた先ほどと色違いの牌山がせりあがってきて、次の対局が始まる。
――海夏の言う通り、おそらく先輩は海夏からの出上がりを狙っている。
前の局、先輩のロン牌は九筒だったが、その前に俺は九筒を切っており、先輩もツモ切りだったため手替わりはしていない。
席替えにより、先輩の上家には俺が、下家には海夏がいる。
つまり、先輩は俺からの出上がりをあえてスルーし、海夏から出る山越しの九筒を狙ったのだ。
なぜそこまでして……。
しかし思えば、入学式の朝、初めて顔を合わせた時から二人はあまり友好的ではない雰囲気だった。それどころか、むしろ一触即発というべき様子だった。
当人同士何か感じるものがあるのか、ただ単純に波長が合わないだけなのか。
俺には見当つかないが、俺の大事な後輩とお世話になっている先輩。二人には仲良くしてほしいというのが俺の心からの気持ちだ。
何かいい方法はないものかと思いつつ手牌から二枚切れの中を切る。
ふと、左から視線を感じちらっとそちらを見ると、秋穂と目が合った。
秋穂は一瞬目を丸くすると、にこっと優しく微笑んだ。心なしか顔が赤くなっているようだが、麻雀は頭を使うゲームなので大方脳に血が回って火照っているのだろう。
その後も対局は秋穂が親ッパネをツモったり、俺が安手で先輩の連荘を止めたりと盛り上がり、ついにオーラスを迎えた。
俺はトップの先輩に15000点差で二位につけており、ラス親は秋穂。つまり俺は、満直かハネツモでトップとなる。
配牌はドラの三萬が暗刻に両面搭子が三つ、八索が対子でアタマにも困らない、かなり良形の二向聴だ。タンヤオドラ三で満貫確定手。リーチをかけてツモればハネツモ条件もクリアできる。これは行くしかない。
最初のツモで両面が埋まり、一向聴。白を打つ。海夏がそれをポンした。
次のツモでさらに両面が埋まり聴牌。俺は迷わず北を打ってリーチをかけた。
しかしこの判断を俺はすぐに後悔することになる。
「あ、言い忘れていたけれど、この半荘は春哉くんは自分より順位が上の人全員の命令を聞くっていうルールになっているからそのつもりで」
「え?」
突如、先輩がそんなことを言い出した。見ると、海夏もうんうんと頷いており、秋穂は「ごめんね」と小さく苦笑いしている。
俺そんな話聞いてないけど?
しかし、そんな俺の思いむなしくツモ番が回ってくる。
牌の表を親指でなぞると、じわっと背中から汗が滲むのを感じた。
恐る恐るツモった牌を見ると――生牌の中。
嫌な予感、それも確実に当たるという確信すら伴ったそれが、急激に俺を襲った。
そして後悔する。
迂闊にリーチをかけたことを。
……この対局を、エキシビジョンマッチなどと勘違いしたことを。
「せんぱいそれロンです! 大三元! これで私が逆転トップで、せんぱいがラスですね!」
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