第8話
ヒビキが割れたガラスで腕を傷つけ始めたので美奈子は彼にしがみ付いた。
「やめてくださいっ!!!」
「!!!」
しがみ付いてきた彼女の顔を虚ろなヒビキの目が捕らえた。
「…消えろといわれるなら…消えますから…っ」
泣いていた。
「…」
泣かせた?
「お願いですから…っ、お願いですからこんな事しないで…」
『自分を傷つけないで…!』
しがみ付かれた腕の感触。感覚。幻ではない感覚。
痛みを与えても消える事のない君。
脂汗が額に前髪を貼り付けた。
「――――――――――――」
俺はこれから…どうやって死神(コイツ)と戦えばいい?
グラリと視界が揺れ、捻り上げられた胃がさらに痛み、胃から食道に逆流してきたものが一気に口から吐き出された。
「ぐふ…っ!!」
手で覆い、受け止めたソレはいつかのように真っ赤ではなくどす黒い。顔を顰めた。
「ヒビキさ…っ!!」
口を覆うヒビキに美奈子も同じく口を覆った。
彼の指を黒いモノが侵食し、滴り落ちる。
腹部を抉り取るのだといわんばかりに強く爪を立てて抑えている。
全身の力が右手に集中してしまい、足の力が抜けてその場に跪く。
「……、……、」
虚ろなヒビキの口元が何か言った。耳をすますと何度も何度も擦れた声で謝っているのが聞こえた。
「―――――――…ごふっ!」
再び吐血し、ヒビキが目の前で…、美奈子の目の前で床に崩れ落ちた。
「…-っ」
自分のネグリジェに付いた血を見て、美奈子は青ざめた。
「いやぁああぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
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