(20)心の距離

 猟師に助けられ、シソクとナジーは無事に村へと帰還きかんすることができた。惨劇さんげきを起こしたレージョの亡骸なきがらとむらいのために持ち帰ったが、村人たちの反応は冷ややかであった。

「山に捨てて、獣のえさにでもしちまえばいいんだ」

「バラバラに切り刻んでやるべ!」

 物騒ぶっそうなことを言う村人たちを止めたのは、被害者の一人とも言える猟師であった。

「死んじまえば、みんな一緒さ。人も、化け物もない。同じ様に埋葬まいそうしてやろう」

 猟師の一声に、異議を唱える者は誰も居なかった。

 おじさんやおじいさんの肉親たちは納得出来ていない様子だったが、だからといってどうする気もないようだ。ただひたすらに涙を流して、肉親たちの死を悲しんだ。


 こうして、村では弔いの葬儀が執り行われることとなった。


 余程よほど、この件がショックだったようである。

 当然と言えば当然であるが──それっきりナジーはシソクの前に姿を現さなくなった。

 とは言え、家が隣なのでナジーの気配は感じていた。活発的だったナジーは部屋にこもり、家から出なくなってしまったようだ。


「ナジー、居ますか?」

 シソクがナジーの家を尋ねると、出迎えたおじさんが首を横に振るった。

「あいつ、しばらくはお前さんと顔を合わせたくないんだと。怖い目に合ったんだ。仕方ねぇだろう。……悪いが、そっとしてやってくれ」

 ナジーの父親からすれば、シソクも娘を危険な目に合わせた一因に過ぎない。口調は優しかったが、出来れば関わり合いになって欲しくはないのだろう。


「……分かりました……」

 シソクは素直に頷き、引き下がった。

 自宅に帰るため、トボトボと歩き出した。


 そんなシソクのもの悲しげな背中を──ナジーは部屋の窓から、何とも言えぬ表情で見詰めていた。

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