第25話 遭遇、おじさんとウェイ

 炎の魔女フレイヤ撃退のため、最低ラインは収益化。

 できれば協力してくれる仲間が欲しいなーなどと思うようになった。


 いや、魔女との戦いは個人的な問題なんだけど。

 古き魔女は戦闘力にならないそうだし、今は配信者の時代。

 となれば……。

 配信者を味方につけるべき!


 今日は幸い、アポが取れたとあるほどほどの大物配信者と会うことになっているのだった。


「なあフロータ。俺の素の姿がいいか、それともスパイスの姿がいいか」


『それはもうスパイスちゃんに決まってるじゃないですかー!! 絶対可愛いし!! 色仕掛けしましょうよ、い・ろ・じ・か・け!! 相手はもうメロメロ! キューン!』


「フロータに聞いた俺がバカだった! そういう返答しか来ないであろうことは予想できたのに……。じゃあフロッピー、どう?」


『はい。スパイスちゃんの姿では入れるお店が限られますし、あまりにもカワイイので人の目を惹きます。ここは冴えない主様の姿がいいでしょう』


「冴えない言うな」


 民生Aフォンが知恵をつけたと思ったら、正直に物を言うようになってしまった。

 最近は自宅でもフロータとフロッピーがネットサーフィンしながらお喋りしているので、大変賑やかだ。

 こうやって、フロッピーに知恵をつけているらしいのだが。


 俺は二人の意見を総合的に聞いて、自前の姿で行くことにした。

 本日の相手は、アポカリプス世界系冒険配信者、チャラウェイ。

 俺からのDMを受けて、すぐに会ってくれることになったのだった。


 本来、配信者はDMのやり取りからザッコでの会話になることが多い。

 だが、社会人としての経験から、一度は顔を合わせておいた方が良かろうと俺は考えたのである。


 最初にダンジョンでも会っているしな。

 それにおじさんであることを公言している俺は、素のままの姿を見せておきたい。

 なんかこれから、一緒に仕事する機会が増えそうな気がするんだよな。


 チャラウェイの切り抜き動画で俺が有名になったっていう縁もあるし。


 俺はスーツを身に着けて、待ち合わせ場所に向かった。

 この日のために革靴も磨いてある。

 会社に行かなくなってからちょっと太ったかと思ったら、むしろベルトの穴が一つ増えていた。


『日々ダンスの訓練をしたりしてるから、体が引き締まりましたねー! 主様割と上背もあるから、見栄えがしますよ!』


「冒険配信者の意外な効能だったなあ……」


 あまり大きな声でフロータと会話していると目立つ。

 小声で囁くのだ。

 フロータの声は不思議と響くので、これでも会話が成立する。


 待ち合わせは、ちょっとお洒落なバルだ。

 ここならあちこちで会話が飛び交い、俺たちの話を聞かれることもないだろうという考えからなのだが……。


「おっ、チャラウェイさんからザッコが来た」


『ウェイ! 近くまで来ました。スパイスさんもいますか?』


 思ったより礼儀正しい!

 何ていうか普通の感じだ!


「はい、もとの姿で、店の前で待っています。スーツ姿ですよ、と」


『了解です。今探します』


 やっぱり冒険配信者できちんとやれている人は、人間的にもしっかりしているのだな。

 俺は感心してしまった。

 その直後、「あの、もしかして」と声が掛かった。


 俺より目線ひとつ分低いくらいの背丈の、オレンジ色の髪の男性がいる。

 チャラっとした感じのウェイな人物で、服装はラフに見えてなかなかおしゃれだ。


 ボディラインが出るくらい密着したニットのインナーと、その上から赤いチェックで仕立てのいいパーカーを身に着けている。

 おっ、いい靴履いてるね……!


「スパイス……さん?」


「あっ、はい。チャラウェイさん?」


「ええ、チャラウェイです。ウェーイ」


 彼はギャルピースをしてみせたのだった。

 これは本人だわ。 

 いや、全然ヒャッハーじゃないんだが、魂の形がね。


 店内にて、予約の席につく。

 食前酒を頼み、ピザなどを焼いてもらう。

 店には石窯が設置されており、注文を受けてから焼いてくれるのだ。


 まずはカルパッチョなどをいただきつつ、これからの話だ。


「いや、マジ驚きましたよ。スパイスちゃん本当に男の人だったんですね」


「そうなんですよ……。リスナーの大半は信じてくれていない気がするんですが」


「そりゃそうでしょう。あの凄まじい精度のアバターに、完璧に美少女エミュレートがされた仕草。十人中九人がおじさんだって信じてくれないですよ。俺だってこうやって会うまで信じられなかったんですから」


「そんなもんですかね……!? 色々理由があって、普通のアバターとは違うからああいうことができてるんですけど」


「企業秘密ってやつっすね。そこは突っ込みません。で、コラボのお誘いですよね。全然オッケーですよ。むしろ美味しい。俺とスパイスさんで関係性みたいなのが出来上がってますからね。絶対に受けますよ」


「本当ですか!? 嬉しいですよ! 実は私も、収益化を目指しているところで。チャラウェイさんとのコラボがいただければ大きく前進できるなと。自分の話ばかりなんですが」


「お互いウィンウィンっすよ! やりましょう!」


「ええ、よろしくお願いします!」


 カバンの中のフロータが、『ふおおおビジネスマンの会話だあ』とか言っているのだった。

 そりゃあ、社会性のある男が二人会えばこうもなる。


「じゃあコラボの日程はどうします? あ、俺の予定はこうなんで」


「うちは予定空いてるんですよね。一週間の予定表とか出してるんですけど……ああ、ここ、どうです? 近々ですけど」


「明後日っすね! 全然オッケーっす! やりましょう」


「初コラボですね! よろしくお願いします」


「こちらこそ!」


 ちょうどそこでピザが来たので、二人で「うめー」と言いながら貪ったのだった。

 さあやるぞ、初のコラボ配信!


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